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ゼロ知識証明の利点と課題:汎用性の高さと多彩なユースケース|WebX2024

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

ゼロ知識証明の利点と制約

CoinPost株式会社が企画・運営し、日本国内外の主要プレイヤーが一堂に会するグローバルカンファレンス「WebX 2024」において、ゼロ知識(=Zero Knowledge, 以下ZKと表記)分野の先駆的プロジェクトを代表する3人のパネリストが、ZK証明技術の利点、課題、現在のユースケース、および将来の可能性について、それぞれの専門的立場から意見を交換した。

パネリスト:

  • Adi Hus氏: 「Aleph Zero」BD責任者、企業のビジネスユースケースにおけるZK活用を支援
  • R H氏: 成長開発リード@「Scroll」(イーサリアムL2プロジェクト:ZKロールアップによるスケーリングソリューション)
  • Masato Atsuta 氏: 成長部門責任者@Polyhedra Network(ZK証明インフラ)

モデレーター:

  • Marin Tvrdic氏:プロトコル関係マスター@Lido DAO (イーサリアムのリキッドステーキング大手)

R H氏はZKの主要な利点として、スケーラビリティとプライバシーの二点を強調した。スケーラビリティに関しては、ZKロールアップを利用したプロジェクトが急増していることからも特徴が裏づけられ、「Scroll」はイーサリアムの拡張性の向上に貢献するプロジェクトだと紹介した。

関連:zkEVMメインネットを「静かに」ローンチ、イーサリアムL2「Scroll」

プライバシーの側面については、ユーザーが必要なデータのみを提供することで「真偽の提示」が可能になるため、ZK証明は非常に有効だと述べた。

Atsuta氏は、上記の利点に加えて、ブロックチェーンのセキュリティに関する信頼を最小化できる点を挙げた。

ZK証明を使用することで、第三者に頼らず、信頼の前提を最小限に抑えることができることから、バリデータネットワークを設定する必要もなくなると指摘した。

 

同氏は、「Ronin Network」のブリッジでバリデータネットワークの脆弱性をつき、多額の被害が発生したのハッキングの例に言及。同氏の属するPolyhedraの製品の一つ「ZKブリッジ」には、ブリッジソリューションとしてZK証明技術が使われおり、ブロックチェーン全体のセキュリティが強化されると説明した。

ZK研究とイノベーション

Atsuta氏は、ZK分野では、これまで多くの暗号学者らが20年から30年という長い年月をかけて、最も効率的なZK証明アルゴリズムの研究を行ってきた歴史に言及した。

ZK証明の主な制約は、その生成速度だと同氏は指摘。この分野における主要なイノベーションとして、Polyhedra Networkが開発した新たなZKアルゴリズムを使った新製品「Expander」を紹介した。

Expanderを使用すると、証明生成の速度が10倍に向上し、さらに生成された証明を複数のマシンで利用できるようになるという。

関連:Polyhedra Network、ゼロ知識証明の生成スピードで業界標準を刷新

Hus氏は、ビジネスのユースケースという観点から見ると、ZK研究は長い間「非常に学術的なもの」だったが、ブロックチェーンとWeb3においては、ZK技術の応用に重点を置いたことが、この技術の推進力になったと指摘した。

イーサリアム・ブロックチェーンを拡張するロールアップは、ZK研究応用の原動力となるユースケースだったと同氏は強調した。

ZKロールアップとは

ゼロ知識証明を導入したロールアップ技術のこと。ロールアップとは、メインのブロックチェーンのセキュリティを活用しながら、トランザクションの一部をオフチェーン(ブロックチェーン外)で処理することにより、ネットワークの混雑解消を図るスケーリングソリューションを指す。

▶️仮想通貨用語集

ZKの応用

Tvrdic氏は、ZK自体は非常に古い技術だが、ブロックチェーンが成熟するにつれて、実世界において生産的価値を与えることが可能になったと総括。具体的なユースケースについてパネリストに尋ねた。

Hus氏は、Alpha Zero社が取り組んでいる通信分野の例を紹介。通信ネットワークシステムではトラフィックが暗号化されているが、特定のウェブサイトへのアクセスを制限するポリシーなどが、事業者により適用される場合がある。

例えば、学校で使われるネットワークの場合、疑わしいサイトや不適切なサイトへのアクセスを、インフラレベルでブロックする必要が生じる。

Hus氏によるとトラフィックが暗号化される中、現在はトラフィックを復号化する「中間ボックス」が、ポリシーに準拠しているかをチェックする役割を果たしているという。問題となるのは、この中間ボックスをコントロールする人物/企業が全てを見ることが可能で、クライアントのプライバシーを侵害してしまう点だ。

しかし、ZKを利用すると暗号化を解除することなく、プライバシーを保護しつつ、ポリシーに準拠している証明を与えることが可能になる。

ただし、その場合、中間ボックスにおける証明生成の速度が重要になるため、先にAtsuta氏が紹介したような、新たに開発された技術が大いに役に立つと、Hus氏は付け加えた。

医療、AIと金融分野

医療・ヘルスケア分野の経験のあるR H氏は、新薬の開発においても、ZKを利用することで、新たな発見に関する知的財産を保護しつつ、議論を深めることが可能だと述べた。

Atsuta氏は、現実世界においては、AIや銀行システムがZK証明の最大のユースケースになるとの考えを明らかにした。

生成AIのトレーニングモデルでは、個人データのプライバシーの侵害や機密情報の漏洩などのリスクがあるが、ZKを利用することで、リスクを回避することが可能だという。ZKの利用により、元のデータにアクセスする必要がなくなるため、ZKはゲームチェンジャーになり得ると主張した。

また、金融分野ではZKを導入したIDソリューションの導入について、決済大手のViSAやJPモルガンなどと話し合いを持っているという。ZKを使用することで、他の検証済みのパートナーとの間で機密情報を公開することなく、情報の信頼性を確保することが可能になる。

関連:Polyhedra Networkがグーグル・クラウドと提携 ZKアズ・ア・サービス「Proof Cloud」を発表

規制の準拠

最後にTvrdic氏は、規制当局によるトルネードキャッシュのようなミキサーの取り締まりやプライバシーコインに対する反発を例に挙げ、ZKがどのような形で規制に準拠し、規制当局と連携できるかについて質問した。

Atsuta氏は、コンプライアンスを維持しつつ、ZKを利用する一般的な例として、お酒を購入する際の年齢証明に言及した。

通常のIDでは、年齢以外の氏名や住所なども共有されるが、ZKを利用したIDだと、単に「 20歳以上である」という情報を示すのみで、政府のコンプライアンスには準拠している。

R H氏は、ZK技術自体は中立であり、それを悪用するか否かはユーザーの行動にかかっていると主張。そのため、ZK証明をよりよく理解するための教育と、規制準拠のニーズを意識したアプリケーションを開発するために、どのような枠組みを策定していくかが重要だと付け加えた。

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