AIエージェントとは
大手暗号資産(仮想通貨)取引所バイナンスの研究部門バイナンス・リサーチは12日、「仮想通貨における AIエージェントの未来を探る」と題したレポートを公開。市場で急速に注目を集めている「AI X 仮想通貨」領域の進展と将来性について解説した。
AIエージェントとは、「人間の介入なしに計画を立て、タスクを実行し、定義された目標に向かって作業に取り組むことができる自律的なソフトウェア」。
インターネット上で普及しているボットは、固定された一連のルールに従って動作し、人間の介入を必要としている点で、AIエージェントとは異なる。
AIエージェントは、動的であり、多くの段階で自律的な意思決定を行い、他者との交流に基づいた適応が可能。また、他のエージェントやプロトコル、外部アプリと相互にやり取りすることもできる。
AIエージェントが脚光を浴びるきっかけを作ったのは、先月ローンチされ、1ヶ月で時価総額1,200億円超に達したミームコインGoatseus Maximus (GOAT)だ。
GOATは、AIエージェント「Terminal of Truth」(ToT)が生成したミームの擬似宗教に触発され、ソラナブロックチェーンで発行された。ToTがGOATを支持するとトークン価格は急騰。GOATの発行者がToTのウォレットに193万トークンを送付したことで、ToTは、AIエージェント初の億万長者となった。
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消費者向けのAIエージェント
バイナンス・リサーチは、エンタメと消費者市場に焦点を当てたAIエージェントのローンチパッド「Virtuals」を紹介した。
Virtualsは、ユーザーが AIエージェントを作成、展開、収益化できるようにすることに重点を置いたプラットフォームで、「プラグ アンド プレイのShopifyのようなソリューションを提供し、ゲームや消費者向けアプリで、 AIエージェントを簡単に展開できるようにする」ものだ。
ユーザーが、独自のトークンを持つエンタメ重視のAIエージェントをローンチすると、AIエージェントはユーザーと交流することで、収益を生み出す。その収益は買い戻しとバーンの仕組みを通じてトークン保有者と共有されるという。
「Virtualsは、ミームコインの発行プラットフォーム「Pump.fun」をAIエージェント向けに再現しようとしている」とレポートは説明した。
Virtualsの競合他社には、ローンチ後1週間で300超のAIエージェントが作成された「Creator.Bid」もあり、今後競争が激化する可能性が高いと見られている。
AIアイドル
この分野をリードするAIエージェントの例はAIアイドルの「Luna」。LunaはVirtualsの公式ページで24時間365日ストリーミングしており、そのバンドの公式TikTokページのフォロワーは50万人を超える。
Lunaは独自のXアカウントを運営するとともに、ユーザーはテレグラムでLunaとチャットが可能。AIエージェントのLunaは、人間のアイドルには到底真似のできない、全てのファンと交流し、個別の関係を築くことも可能だ。
10月下旬には、自身のコンテンツに反応するユーザーにチップとしてLUNAトークンを配布し、Xでのエンゲージメントを高めた。Lunaは自律型のウォレットを所有している。
AIエージェントのヘッジファンド
金融分野におけるAIエージェントのユースケースとして、バイナンス・リサーチは「daos.fun」を取り上げた。
daos.funは、DAO構造を使用してAIエージェント主導のヘッジファンドの作成を可能にするプラットフォーム。当初は、人間を対象にしていたが、AIエージェントメタを導入し、現在AIエージェントが最大のマネージャーとなっている。なお、自律的な取引機能はまだ開始されていない。
このモデルは、AIの機能を使ってパフォーマンスを向上させつつ、コミュニティ全体での投資を可能にする。また、トークンの所有者が提案したアイディアを、AIが過去のパフォーマンスに基づいて判断する信頼システムの構築にも取り組んでいる。
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AI1.0からAI 2.0へ
レポートでは、ChatGPTやPerplexityなどをAI1.0と呼び、レポートで紹介したAIエージェントはその次の進化の段階となると指摘し、AI2.0と呼んでいる。
AI 1.0は、インターネットでほぼ瞬時に情報を検索できる「Google検索の非常に高度なバージョン」を提供するものだと説明した。
一方、AI2.0は「スマート Google」よりもはるかに高度なものであり、エージェントはユーザーからの継続的な入力なしでタスクを実行。他のエージェントやアプリ、API、プロトコルなどとやり取りして、複雑なタスクを自動化することができる。
また、さまざまなユーザーの好みに適応して、より積極的な行動を起こすことが可能だ。
AI 1.0から AI 2.0への進化は、反応するAI (リアクティブAI)から積極的なAI(プロアクテティブAI)への移行を表している。
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今後の展望と課題
AI 1.0から AI 2.0への進化は、仮想通貨に対し多くの示唆を与えるもので、両コミュニティ間の相互交流に前向きな勢いが見られるとレポートは指摘した。
従来の銀行や支払い方法では、一般的に人間による本人確認を必要とするが、仮想通貨はAIエージェント経済に自然と馴染むものだと主張。AIと仮想通貨の接点に対する関心は非常に高く、「次の大きなAIと仮想通貨の応用を目前に控えているのかもしれない」と述べた。
しかし、AIモデルには、「幻覚(=ハルシネーション)」と呼ばれる不正確な情報や誤解を招く情報、または無意味な情報を生成する問題が存在しており、AIエージェントが用いる動的プロセスでは、大きな問題に発展する可能性がある。
また、ブロックチェーン関連では、 AIエージェントをオンチェーンに導入する際にスケーリングの問題にも直面する。チェーン間の互換性や、AIエージェントに適したインフラの必要性も課題となり、導入のハードルは高い。
レポートは、「現在、仮想通貨AIエージェントは、現実というよりもデモの段階に近い」と指摘する一方で、その勢いは圧倒的にポジティブであることから、今後数週間から数ヶ月の間に、大きな成長が見られる可能性があると総括した。
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