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「数年で産業規模が実現する可能性」
マイクロソフトは19日、量子コンピュータ向けのチップ「Majorana 1(マヨラナ・ワン)」を発表した。これにより、暗号資産(仮想通貨)を含む現在の暗号技術が破られる可能性への懸念が再燃している。
仮想通貨業界では以前より量子耐性についての議論がなされてきたが、今後対策が急がれる可能性が浮上した格好だ。
マイクロソフトは、Majorana 1の誕生により、数十年ではなく数年で、産業規模の問題を解決できる量子コンピュータが実現することが期待されると表明した。
ITコンサルティング企業SHI International Corpのコンサルタント、ファブリツィオ・ミクッチ氏は次のように見解を述べている。
マイクロソフトが量子チップ「Majorana 1」を発表したことで、大規模量子コンピューティング実現までのタイムラインが大幅に短縮された。これは、仮想通貨のセキュリティにとって問題となる可能性がある。
ミクッチ氏はまず、公開鍵についてリスクが生じると指摘。例えば、ビットコイン(BTC)で複数回同じアドレスを使って送受信が行われた場合、理論的には、量子コンピュータを使った攻撃者はその秘密鍵を抽出して、資金を盗むことが可能となる。
ミクッチ氏は次に、ビットコインやイーサリアム(ETH)など主要な仮想通貨のほとんどが楕円曲線デジタル署名アルゴリズム(ECDSA)という暗号化に依存していることに言及。
100万量子ビットの量子コンピュータが開発されれば、このアルゴリズムが解読される可能性があると述べた。
「Majorana 1」とは
Majorana 1は、世界で初めてトポロジカル絶縁体と超伝導体の性質を兼ね備えた「トポコンダクター」を使用している。マイクロソフトは、これにより新しいチップは100万量子ビットまで拡張することが可能で、最も複雑な産業規模の量子コンピュータシステムの開発への道を開くとしている。
同社は、100万量子ビット以上の量子コンピュータ開発までの道のりを、あと数年に短縮できると宣言した。
仮想通貨業界は量子耐性を議論
ミクッチ氏は、仮想通貨業界に対して、量子コンピュータの存在を前提とした対応を呼びかけた。
耐量子アップグレードの必要性が高まっている。大規模な量子コンピューティングが現実になる前に、仮想通貨の開発者は、ポスト量子暗号(PQC)アルゴリズムに移行する必要がある。
仮想通貨業界では、すでに量子耐性についての議論や提案が行われているところだ。
例えば、イーサリアム(ETH)のヴィタリック・ブテリン創設者は2024年3月、量子コンピュータがもたらすリスクに対処する方法として、リカバリー(回復用)のためのハードフォークを行うことを提案した。
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ソラナ(SOL)では今年1月、開発者のdeanmlittlesi氏が「Winternitz Vault」という解決策が実装されている。
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また、ビットコイン(BTC)の開発者らは2024年11月、量子リスクについて議論。対策が必要なことに同意していた。ビットコイン起業家のベン・シグマン氏はこの際、ビットコインの暗号アルゴリズムであるECDSAやSHA-256を破壊するには数百万量子ビット以上が必要になると述べていた。