デジタル・ユーロ導入の3つのシナリオ
欧州中央銀行(ECB)の執行委員ファビオ・パネッタ氏がECBの会議で「デジタル時代におけるヨーロッパの決済システム」というタイトルの講演を行い、EUの決済デジタル化の動向やデジタル・ユーロ発行の意義について語った。
この記事では、その内容からいくつか紹介する。
加速する決済デジタル化
EUでは、取引総額に占める現金の割合が、2016年の79%から2019年には73%に減少した。
一方でカード決済は拡大しており、取引量は19%から24%に、取引金額は39%から41%に増加。カードと電子決済ソリューションがリモート決済の購入の大部分を占めている。
人々が請求書を支払う方法としては、口座からの直接引き落としとクレジット振替が最も一般的だ。
また、キャッシュレス決済の傾向は、パンデミックによって加速しており、家庭でのオンライン決済が急増した。また店舗でも非接触型決済へとシフト、現金の使用を減らした者も多い現状がある。
このような状況から、EU当局にはコストが低くリスクのない支払いオプションを、すべての人が利用できるようにする責任がある、とパネッタ氏は論じた。
デジタル・ユーロ導入の意義
パネッタ氏は、ECBが発行するデジタル・ユーロが、前述のような、シンプルで、コストが低くリスクがない信頼できるデジタル決済手段へのアクセスを提供できるものになると説明した。
「適切に設計されれば、銀行が新しいビジネスモデルを構築し、より安く革新的なサービスをユーザーに提供できるようになる。中央銀行は民間業者とは異なり、消費者データに関連する商業的利益を持たないことから、プライバシー面でも優れている」と述べた。
また、デジタル・ユーロが必要となるシナリオが幾つか挙げられた。
人々が現金を使用することに消極的になったケースや、自然災害のために他の電子決済手段が利用できなくなったケース、また外国のデジタル決済手段が流入しEU圏内で流通する貨幣を大きく置き換える恐れがあるケースなどだ。
結論部分で、パネッタ氏はセキュリティや金融政策への影響を課題として挙げつつも、デジタル・ユーロについて「私たちは、適切な戦略を模索し始めている」として、社会で決済デジタル化が進む中で、ECBがデジタル・ユーロを有望な解決策とみなしていることを示した。
自然災害対策でCBDCを発行したバハマ
パネッタ委員が、中銀発行デジタル通貨(CBDC)が必要になるシナリオの一つとして挙げた「自然災害のため他の電子決済手段が利用できなくなったケース」は、まさにバハマが、先日世界に先駆けてデジタル法定通貨を立ち上げた大きな理由だ。
バハマは地理上ハリケーンによる被害を受けることが多く、昨年も銀行の建物が損壊し、一部の島で操業が停止していた。
バハマのCBDC「サンドダラー」は、災害時のワイヤレス通信を可能としており、迅速な金融サービスの回復と、関連する小売サービスへの接続回復に期待できるとしている。
グローバルなステーブルコインに警戒
「外国のデジタル決済手段がEUの貨幣を置き換える」という発言については、主に国際的なステーブルコイン、特にフェイスブック主導「リブラ」の計画を警戒していると見られる。
9月24日は、欧州委員会が仮想通貨に対する規制案を正式に発表したが、その中で「一般的な仮想通貨市場は規模が大きくないため、現時点では金融の安定には影響はない。しかしグローバルに利用されるステーブルコインは状況が異なる」とも指摘していたところだ。
そこで法案は、複数の通貨を裏付け資産とする仮想通貨は、欧州銀行監督局(EBA)が監督。また、1つの通貨を裏付けとする場合は、ユーロなどEUの法定通貨にペッグさせ、EBAと各国の当局が共同で監督するとした。
さらに、トークンの発行者は、発行額の裏付け資産を準備金として保有し、消費者から要請があった場合は法定通貨と交換できるようにすることなどを求めている。