仮想通貨を「大衆化」する。CtoC EC業界で日本最大手のフリマアプリ「メルカリ」を運営するメルカリ社は、この目標を掲げて仮想通貨・ブロックチェーン事業を展開する「メルコイン」を設立しました。
21年7月時点では事業開発の最中で、サービスはローンチされていません。今後どういった機能をメルカリグループのサービスを通じてユーザーに提供していくのか、その将来性に注目が集まっています。
そこで本記事では、メルコインが提供を予定している機能についてご紹介し、事業の展開によって仮想通貨・ブロックチェーン業界に与える影響について考察しましょう。
1.メルカリ社の新事業「メルコイン」とは
株式会社メルコインは、仮想通貨・ブロックチェーン関連サービスの企画・開発を行うメルカリグループの新事業です。仮想通貨取引所の運営も視野に入れており、金融庁へ暗号資産交換業者の新規登録申請を予定しています。
株式会社メルカリの100%子会社として21年4月28日に設立され、資本金は5000万円です。
21年7月1日には一般社団法人日本暗号資産ビジネス協会(JCBA)に入会、21年8月にはブロックチェーン分析技術の開発企業Bassetの全株式を取得するなど、22年のサービス開始に向けて急ピッチで体制を整えています。また、2021年9月には金融庁認定の規制団体である「日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)」の第二種会員として登録されました。第二種会員は、金融庁の業登録を完了した仮想通貨交換業者で構成される「正会員」への登竜門です。
メルコインの代表取締役CEOは青柳直樹氏(メルペイのCEOを兼任)、取締役CISOは曾川景介氏、取締役は伏見慎剛氏(決済サービスの「Origami」創業メンバー)。
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また、仮想通貨・ブロックチェーンはメルカリグループが深い知見を持つ分野です。
これまでメルカリに仮想通貨・ブロックチェーン関連のサービスが実装されることはありませんでしたが、領域への参入については以前から社内で継続的に検討されていました。
さらには、同社が2017年に設立した最新テクノロジーの研究開発をおこなう組織「mercari R4D」では、ブロックチェーンに関する研究へ積極的な投資が行われています。
そんな中でメルコインの設立に至ったきっかけは、メルペイのウォレットで資産運用を行うニーズが非常に大きいと判明したことです。それから更に議論を重ね、将来的に投資ニーズが拡大していくと予想される仮想通貨領域での参入に踏み切りました。
メルカリグループは今後、メルコインをメルカリ・メルペイに続く事業の柱として展開していく方針です。
ブロックチェーン技術の導入を通じて、ユーザーがあらゆる価値の取引に様々な形で参加できる「分散型」の新しいマーケットプレイスを構築していくことが期待できます。
2.メルコインの機能と将来性とは
続いて、メルコインによりメルカリグループのサービスへどういった機能が実装される予定か、詳しくご紹介します。
2‐1.メルカリの売上をビットコインへ
「メルカリ」はメルカリグループが提供するモノのマーケットプレイスで、不要になったモノを販売した売上金を法定通貨で受け取ることができます。
メルコインは、このメルカリの既存サービスに「売上金をビットコインで受け取る機能」を提供する予定です。
売上金がビットコインで受け取れるようになれば、ビットコイン運用への参入ハードルは確実に低くなります。これまでビットコイン購入に抵抗があった層も、より気軽に仮想通貨取引を開始できるようになるでしょう。
2‐2.決済サービス「メルペイ」との親和性
「メルペイ」は、メルカリでの売上金や銀行口座から電子マネーをチャージし、支払いに利用できる決済サービスです。2021年3月末時点で、メルペイ決済は全国206万か所の加盟店・100を超えるECサイト(導入予定含む)で利用できます。
メルコインは、このメルペイの既存サービスに「ビットコインによる決済・送金機能」を提供する予定です。これにより、例えばメルカリで不用品を販売して受け取ったビットコインを決済・送金で利用する、という使い方も可能になるでしょう。
さらに、メルペイの与信サービス「メルペイスマート払い」や、メルペイ残高を利用して資産運用ができるサービス「ふえるお財布」も仮想通貨と連携します。
ふえるお財布ではメルペイ残高でビットコインを購入できる機能が実装され、メルペイを使って仮想通貨を運用できるようになる予定です。
メルコインでは、目下の方針として通常の仮想通貨取引所とは異なりビットコイン等に通貨を限定して提供し、仮想通貨利用者のパイ拡大を目指す模様。
金融事業であるメルペイと仮想通貨・ブロックチェーン事業のメルコインは非常に親和性が高いです。そのためメルペイは今後、既存サービスにメルコインの事業を積極的に統合し、メルカリグループの金融サービスを総合的に強化していくでしょう。
2‐3.NFT関連のサービスを創出
さらにメルコインは、ブロックチェーン技術を活用することで、これまでメルカリグループが扱ってきた「モノ」「お金」に留まらない価値の流通に取り組みます。
具体的にはNFT(Non-fungible token)を活用し、メルカリが今まで扱えていない「サービス」や「デジタルコンテンツ」「所有権」といった価値を流通させていく方針です。
詳細のスケジュールは策定中ですが、アート・スポーツ・ゲーム・エンターテイメントの4つのカテゴリーに重点を置き、クリエイター個人による価値の流通促進を検討しています。
市場として初期のフェーズであるNFT領域へ参入することで、ルールを作り・マーケットを安定させる役割を担い、ブロックチェーン業界全体を活性化させていく狙いもあります。
3.メルコイン、ブロックチェーン業界への影響とは
世界的に見て仮想通貨市場は活性化を続けており、投資対象としてだけでなく日常利用する資産としての認識も広がり始めています。ただし日本国内においては、仮想通貨市場のユーザー層は限られているのが現状です。
メルコインは仮想通貨の国内ユーザー数・層を拡大し、仮想通貨を「大衆化」するという意味でブロックチェーン業界に大きな影響力を与えていく可能性があります。
そこで最後に、メルコインの参入によって仮想通貨が大衆化されていくと予測される理由を考察しましょう。
3-1. メルカリグループの圧倒的なユーザー数
メルカリはフリマアプリ最大手で、日本中の誰もが知るサービスを提供するマーケットプレイスです。そのためメルコインの参入によって、メルカリが抱える膨大なユーザーへの仮想通貨の普及が期待できます。
具体的には、メルカリは21年3月末時点で月間約1904万人が利用しており、メルペイの本人確認済み利用者数は800万人を突破しました。これは、一般的な仮想通貨取引所のユーザー数と比べると桁違いです。
仮想通貨について「怖い」「よく分からない」という懐疑的な印象を持つ人も少なからず存在します。しかしメルカリが仮想通貨・ブロックチェーン業界に参入すれば、仮想通貨は多くの人にとって身近なものになるでしょう。
3-2. 10代~50代まで幅広いユーザー層
日本最大級の暗号資産総合投資情報サイト「仮想通貨部 かそ部」が2020年に行った調査によると、日本で仮想通貨の利用者は30〜40代が約8割を占めるとされています。
さらに、その内約6割が「投資経験のあるビジネスマン」であるとの結果が出ており、ユーザー層には大きな偏りがあると言えるでしょう。
この点メルカリの利用者層は、2018年のメルカリユーザー調査結果によると10~20代が46%、30代が24%、40代が21%、50代が9%と幅広く分布しているのが特徴。
また、21年3Q末時点でのGMV(販売総額)も「エンタメ・ホビー」が27%を占める等、より大衆的な層が利用者の多くを占めています。
そのためメルカリで仮想通貨の利用が提供されれば、これまで仮想通貨を購入したことが無いユーザー層へ広く普及していく可能性を秘めているのです。
3-3. CtoC EC市場自体も拡大している
また、CtoC EC市場自体に成長のポテンシャルがあり、メルカリのユーザー総数も将来的に拡大していく可能性があります。
実際、メルカリの月間アクティブユーザー数は右肩上がりで上昇しており、21年の3Q末時点では1904万人を記録。2018年の上場後も、順調に新規ユーザー数を増やしています。
メルカリの流通総額は21年度第3四半期連結累計期間において5762億円となり、前年同期比で1308億円増加しました。
また、「内外一体の経済成長戦略にかかる国際経済調査事業(電子商取引に関する市場調査)報告書」によれば、国内CtoC EC市場は1兆7407億円(19年時点)に成長しており、前年比では9.5%増。
成長を続けるCtoC EC市場で最大手のメルカリが仮想通貨・ブロックチェーン事業を展開すれば、中長期的にも継続的な仮想通貨利用者の増加が見込めます。
また、上場企業であるメルカリの参入を皮切りに、国内の企業による仮想通貨市場への参入が増える可能性も。
結果として仮想通貨の取引高が上がれば、仮想通貨市場の成熟にも貢献するでしょう。
メルコインが創る仮想通貨の「これから」に注目
仮想通貨を大衆化し、C2Cのマーケットプレイスを拡張するというビジョンを掲げるメルコイン。メルカリグループは今後、プラットフォームが持つ圧倒的ユーザー数・幅広い利用者層といった独自の強みを生かしながら、金融サービスの領域において強固な事業基盤を構築していくでしょう。
メルコインが、国内ではまだ一般化していない仮想通貨やブロックチェーン市場をどのように「大衆化」していくのか、今後の展開に注目です。