海賊版防止に報償金
米IT最大手マイクロソフトの研究部門が、違法コピーなどの海賊行為防止対策として、ブロックチェーン基盤の報償金システム「Argus」を提案した。
「Argus:著作権侵害対策のための完全な透明性を持ったインセンティブシステム」と題された論文は、マイクロソフト・アジア研究所が執筆したが、中国アリババグループとカーネギーメロン大学の研究者からの意見も取り入れているという。
著作権侵害を報告することで報償金が得られるシステムだが、イーサリアムブロックチェーンを使用することで、透明性と実用性、安全性を確保すると同時に、システムの悪用やエラーを制限する仕組みが組み込まれている。
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透明性の欠如が問題
論文では、効果的な著作権侵害対策の中核は「信頼性の高い報告」だが、現在、ソフトウェア産業団体や企業が行っている防止キャンペーンの手法は「透明性に欠けるため、効果が疑問視されている」と指摘した。
実際、マイクロソフトが設立に貢献し、所属している業界団体BSA(ソフトウェア・アライアンス)が著作権侵害対策の一環として行っているソフトウェア監査には、対象となった数々の企業側から苦情が寄せられ、訴訟に発展したものもある。また、不満を持つ従業員に、所属企業の著作権侵害を告発するよう勧める手法なども批判されている。
論文の執筆者らは、「偽りのない動機付けをしたいならば、防止活動には完全な透明性が必要だ」と主張している。
BSAとは
ビジネス・ソフトウェア・アライアンス(Business Software Alliance)として、1988年に米国で設立されたソフトウェア業界団体。ソフトウェアの著作権の保護支援および啓発活動を行う。ワシントンDCに拠点を置き、30か国以上で活動を展開。2012年にソフトウェア・アライアンスに改名。
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Argusの取り組み
Argusプロジェクトで、研究者がまず取り組んだのは、著作権侵害を摘発する関係者の利害関係や、関連企業の目的を明確に規定すること。現在、海賊版防止システムの設計や評価の枠組みは存在しないと指摘し、次のように述べた。
我々の研究が生んだ最も重要な価値は、Argusシステムそのものよりも、その設計と実装に至るまでのアプローチだ。
まず、様々な役割の利益を提示し、「信頼される役割」を設定することなく、いずれの役割にも完全な透明性を確保するという目標を明確に設定。すると、全ての設計要件が自ずと明らかになったという。これらの設計要件に基づき、一般的に有効なソリューション形式を「発明する」のではなく、論理的に推論することができたとという。
技術的な問題には、暗号方式の適応や契約コードの構築、パフォーマンスの最適化で対処し、克服したと説明している。
匿名で報告可能
Argusシステムでは、人々が匿名で著作権侵害行為を報告し、報償金を得ることができるようになっている。海賊版のコンテンツは、シークレットコードに対応した固有の電子「透かし」によって、そのソースまで追跡される。海賊版が報告されるとソース(ライセンス保持者)のステータスが「容疑者」に変更される。「容疑者」は不服申し立ても可能だが、申し立てが却下された場合、ステータスは「有罪」となる。
また、Argusシステムには、著作権侵害コンテンツの報告には「リークの証明」という仕組みが導入され、情報が保護されるようになっている。システムの悪用を防ぐため、同一の海賊版については、一人の報告者から一度限り報告できるセーフガードが導入されている。
イーサリアムブロックチェーンを利用するため、通報にかかるコストが気になるところだが、暗号操作を効果的に最適化することで、約14の簡単なトランザクションと同等のコストまで削減できたと研究者は説明した。