PoSへの移行「マージ」への期待
時価総額2位の暗号資産(仮想通貨)イーサリアム(ETH)は今年、大きな転換点を迎えようとしている。
ネットワークを支えるコンセンサスアルゴリズムを、プルーフ・オブ・ワーク(PoW)からプルーフ・オブ・ステーク(PoS)へ移行させる大型アップグレード「The Merge」(マージ)の実施予定日が、9月19日に設定された。
マージ(Merge)は英語で「統合」を意味しており、The Mergeでは、ユーザーが現在利用している旧イーサリアム(メインネット)と「ビーコンチェーン」と呼ばれる新しいチェーンを「統合」することにより、PoSへのアップグレードが完了する。
20年12月にローンチされたビーコンチェーンは、ステーキングの管理やバリデータの選択、シャードチェーン同士の連携など、イーサリアムが適切に機能するためのインフラを提供する。トランザクションなどの処理は行わず、コンセンサス形成を担うレイヤーとして機能する。(=コンセンサスレイヤー)
一方、現在のメインネットはトランザクションやスマートコントラクトの実行(=エクセキューション)を担うレイヤーとなり、コンセンサスレイヤーとエクセキューションレイヤーの二つのレイヤーが統合することで、新たなイーサリアムを構成することになる。
PoS移行によりブロック生成を行うのはマイナーからバリデータに変更されるため、ETHのマイニングは終了する。マイニングによるPoWブロックチェーンのエネルギー消費量が、仮想通貨懐疑論者の批判の的となっているが、その問題も大幅に解消されると見込まれている。
しかし、イーサリアムのエコシステムにおいて最も大きな影響を受けるのは、マージ完了後にETHの1日あたりの生成数が激減することだろう。PoW時の12,000 ETHから1,280 ETHとなり、推定インフレ率は約90%減少することになる。
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画期的だったトークンセール
マージの実施により新たなETHの発行モデルが導入されることになるが、イーサリアムの最初期に行われたクラウドセールは、当時、ビットコインを利用した画期的な資金調達方法として大きな注目を集めた。
ETHのトークンセールは、ネットワーク立ち上げの1年前、2014年7月から9月まで実施されたが、早期参加を促すためのインセンティブとして、早期に購入するほど割安にETHを入手できる仕組みとなっていた。最初の2週間は1BTCあたり2,000ETHを購入可能だったが、その後、短期間で1BTCあたり1,337ETHまで価格は急騰していく。
仮想通貨データ分析企業Coin Metricsによると、この期間のクラウドセールで計6,000万ETHが販売され、売り上げは31,000BTCに達した。そのうちの約5,000万ETHは割安感のあった初めの2週間に集中している。最大購入額の上位3位は、500BTC、466BTC、330BTCで、クラウドセール参加者の平均購入額は「3.65BTC=約7,000ETH」だったという。
イーサリアムの総供給量の変遷
早期購入者には、さらなるインセンティブが用意されていた。
創成期にエコシステムへ貢献した報酬として、早期購入者は販売されたETH全体の約10%に相当する量を追加で受け取った。また、イーサリアム財団にも約10%の量が確保されたため、ネットワークローンチ時のETHの総供給量は7,200万ETHとなり、8,893のアドレスで保有されていた。
最初期の保有者(ジェネシス・アカウント)の92%は、その後ETHを移動しており、現在に至るまで一度もETHを動かしていないアドレスは693のみ。そのうちの最大のウォレットは25万ETHを保有しているという。
現在、マイニング(採掘)によりETHが新たに発行され続けた結果、ETHの総供給量は約1億2,000万ETHとなっている。今日までに新たに5,000万ETHが発行されたことになるが、イーサリアム創成期に作成されたウォレットが保有するのは、ETHの総供給量の約2%に当たる266万ETHと年々減少しているようだ。(2018年は700ETHを保有)
8年というイーサリアムの短い歴史の中で、分散化が進んできた証左と言えるかもしれない。