メイプルストーリーN インタビュー
大手ゲーム開発企業ネクソン(NEXON)は、子会社「NEXPACE」を通じて、世界で2億5,000万人を超えるユーザーを持つ人気オンラインゲーム「メイプルストーリー」を、ブロックチェーンに対応し機能を進化させるプロジェクト「メイプルストーリー・ユニバース(MapleStory Universe )」の開発に取り組んでいる。
メイプルストーリーは、配信開始から21年間の運用実績を誇るMMO(大規模マルチプレーヤー同時参加型)RPGの金字塔とも言える、ネクソンの主力タイトル・知的財産(IP)の一つだ。
ネクソンは2022年6月、同社初のNFTゲーム化の試みに対して、総売り上げ50億ドルを超える大ヒット作のIPを選択すると発表した。
MMORPGはその性質上、ゲーム内マネーやレアアイテム、アカウントを売買するリアルマネートレード(RMT)市場が盛んであったが、RMT行為はゲーム会社が定める利用規約で禁じられていることが多かった。
しかし、ブロックチェーンゲームであれば、アイテムの所有権をユーザーが保有することになり、NFT(非代替性トークン)の売買は、ゲーム内のみならずOpenSeaなどのゲーム外プラットフォームでも売買や譲渡することができる。
メイプルストーリー・ユニバースの開発は、同社の主要タイトルを開発・拡大してきたベテランがリードし、世界中で100人以上の従業員がサポート。6月に初のキャンペーンとなるジェネシスを開始し、7月に東京で開催されたWeb3カンファレンスで、エコシステムの立ち上げが発表された。
CoinPostは、MapleStory Universeを開発するネクソンの子会社NEXPACEの事業開発部門責任者であるアンジェラ・ソン氏にインタビューし、同プロジェクトの詳細と展望について尋ねる機会を得た。
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IPの可能性を広げるために
ソン氏は、メイプルストーリー・ユニバース・プロジェクトは、メイプルストーリーのIPを新しいテクノロジーと領域に拡大することで、世界のユーザーにこのゲームの新たな側面を届ける取り組みだと述べた。
ネクソンは長年の活動を通じて、ゲームとは開発者とプレイヤーに限られたものではなく、公式コンテンツに加えて、コミュニティが生み出した作品や活動であり、ゲーム体験全般には、これらすべてのアクティビティが含まれることに気づいたという。
そのため、ブロックチェーン技術を活用して、IP体験を継続的に拡大し、コミュニティメンバーが自発的に参加するエコシステムを構築することが、今後のゲーム体験を充実させるために重要となる。
さらに、ブロックチェーンが提供する資産の相互運用性が、キャラクターやアイテムなどのゲーム内資産をゲーム外へ移転可能にするのに適していることも、ネクソンの要望に適うものだった。
ソン氏は、ブロックチェーンはメイプルストーリーというゲーム自体を強化するためのツールの一つであり、ブロックチェーンの登場によって、これまでネクソンが長い間やりたかったこと、そしてゲームにとって最善と考えてきたことを実現できたと総括した。
アバランチチェーンを選んだ理由
ネクソンは今年3月、L1ブロックチェーン「アバランチ」の開発に携わるAva Labsとの提携を発表。メイプルストーリー・ユニバースの開発に、アバランチの高度にスケーラブルなアプリ専用プラットフォーム「サブネット」を活用している。
From pioneering free-to-play to championing blockchain gaming: Maplestory continues to evolve!
— Avalanche 🔺 (@avax) March 11, 2024
MapleStory, one of the most legendary games from Korea’s largest game studio, Nexon, is now coming to Avalanche with @MaplestoryU on a Subnet.
Maplestory was one of the first games to… pic.twitter.com/Ohv6XGp6wh
ネクソンは、メイプルストーリーを過去20年間以上に渡って運営してきた経験から、オンラインでゲームを提供する際に直面する問題点や、セキュリティ及びコンプライアンスの側面を熟知しており、様々な構築方法やフェイルセーフ設定について非常に高い要件があったとソン氏。
その点で、アバランチのチームはゲームへの造詣が深く、すでに様々なサブネットで多数のプロジェクトが稼働しており、ユーザーに公開されている実績を評価したという。実際、アバランチ・チームの実戦経験とゲームへの理解が、メイプルストーリーのインフラ作成に非常に役に立ったとソン氏は付け加えた。
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メイプルストーリーNのポテンシャルは
ブロックチェーン版メイプルストーリーは、「メイプルストーリーN」と呼ばれ、メイプルストーリー・ユニバースのエコシステムで、リリースされる最初のゲームとなる。プレイを楽しみながら、ゲーム内で報酬を獲得する体験を向上させるという理念に基づいて開発が進められた。
コア体験はクラシック版と非常に似ているが、メイプルストーリーNでは、現実世界の経済を模して「需要と供給の法則」が実装されている。例えば、リリースされるアイテムは、その種類と希少性に応じて、期間内の供給量が決定される。
メイプルストーリーNのすべてのアイテムとキャラクターは数量限定のNFTとなるため、NFTの有用性と使用法がさらに拡大する可能性が高まることになる。
また、アイテムの強化についても、強化にかかるコストは市場経済の原則が適用され、需要が高い場合はコストが上がり、需要が低い時はコストが下がる「需要主導型の価格設定システム」が設定されている。
そのため、プレイヤーはより多角的に考え、様々な戦略を展開することが求められるが、プレイの方法に絶対的な正解はない。戦略的な選択はプレイヤー自身の判断に委ねられるため、ゲーム全体が、よりダイナミックになるとソン氏は指摘。さらにブロックチェーンの要素と拡張機能によって、それぞれのプレーヤーが自分に合った条件でプレイする新たな機会が生まれると付け加えた。
ユーザー体験拡大へ
NEXPACEは、メイプルストーリー・ユニバースを構築する基盤として「コミュニティと共同でユーザー体験を拡大する」ことが重要であると確信しており、その実現のために「シナジーアプリ」と呼ばれる4つのアプリを新たにリリースする。
- マーケットプレイス:ゲームから独立して運営され、様々なサーバー間の取引が可能
- エクスプローラ:オンチェーン・アクティビティや主要な指標を追跡
- クエスト:アクティビティ参加でプレイヤーが報酬を受け取るプラットフォーム
- ナビゲーター:メイプルストーリー・ユニバースで利用可能なアイテムやNFTのさまざまな特性を紹介
シナジーアプリは、ゲーム内とゲーム外の体験を繋げるというメイプルストーリー・ユニバースのコンセプトをサポートするもので、これまでメイプルストーリー内に限定されていた体験をWebなどの外部環境でも利用できるようにするものだと、ソン氏は説明した。
コミュニティの重要性
例えば、クエストの要素の一つに「ドレスルーム」があり、Web上でキャラクターをカスタマイズしたり、アイテムを操作したりすることが可能だという。また、より大きなコミュニティへの貢献と認識されるアクティビティには、ユーザーによるメイプルストーリーのコンテンツ作成などが挙げられる。
このように積極的なユーザー参加を奨励するシステムとしてクエストが機能するが、ソン氏によると、クエストを開発した背景にはゲームを運営する上で得られた体験が影響しているという。
ゲーム体験は、開発者である我々だけが作り出すものではなく、コミュニティの力に大いに頼っている。コミュニティは、追加コンテンツやユーザー文化、さらにはコミュニティやゲームの特徴を定義する重要なユーザーグループさえも生み出す重要な要素となっている。
NEXPACEは「ユーザーと一緒にゲームを作っている」と言えるような、双方向の関係構築を望んでおり、クエストのシステムによって、そのような関係構築が促進されるとソン氏は付け加えた。
NFTとユーティリティトークン
メイプルストーリー・ユニバースの理念に基づき、メイプルストーリーNではプレミアムショップの運営や開発・運営会社によるNFT(ゲーム内アイテム)のプレセールは行わない方針だ。ゲームに参加しプレイすることによってのみ、NFTやトークンを獲得することが可能な設定となっている。
ソン氏は、これはNEXPACEの意識的な選択であり、メイプルストーリーが配信開始以来ずっと“無料で始められるゲーム”だったという歴史を踏まえ尊重したものだと述べた。さまざまなプレイヤーを歓迎できるよう、プレイヤーに多くの金銭的負担を負わせたり、ゲームをプレイする際の参入障壁を設けることは出来るだけ避けたいとの配慮からの決断だったという。
「メイプルストーリー・ユニバースの理想的な目標は、メイプルストーリーの“次の20年間を創造していく”ことであり、それは持続可能なビジネスモデルで実行される必要がある。」と強調した。
メイプルストーリーNには、ゲーム内通貨のような役割を果たすユーティリティトーンが用意されており、アイテム強化やマーケットプレイスでのアイテム売買などに使われる。
ブロックチェーン版メイプルストーリーでは、運営会社によるNFTやアイテムセールによる資金調達に頼るのではなく、ユーザーが作り出すダイナミクスと、NFTの所有権に基づいたユーザー主導の経済を発展させることを目指すとしており、アラド戦記など現在進行形で成功している大手企業ならではの余裕を感じさせる。
ネクソンは、韓国国内だけでなく、中国市場最大手のテンセント・ホールディングスと提携してリリースした「アラド戦記・モバイル(地下城与勇士:起源)」も爆発的な人気を博し、ダウンロード数と売上高で首位となり、初月収益3億ドル(460億円)を超えたことが報じられたばかりだ。
パイオニアテスト
正式リリース前に、公募で選ばれたユーザーがメイプルストーリーNを体験する「パイオニアテスト」が7月24日から開始された。10日間にわたってテストが行われる。
パイオニアテストは、メイプルストーリーについて様々な経験レベルを持つユーザーから、改善方法についてフィードバックを得ることを目的にしたテストだ。
ユーザーが提供されたコンテンツを実際に体験することで、バグや改善の余地について報告してもらうことが、ゲーム開発の最終段階には欠かせないとソン氏は語る。コミュニティからのフィードバックを得て、メイプルストーリーをより良いものとし、いち早くより多くのユーザーに発表することがこのテストの主な焦点だという。
メイプルストーリーNのメインネット版は年内にリリースされる見込みとなっている。(*日本サービスに関しては未定)
セキュリティ対策やチート対策は
クラシック版のメイプルストーリーは世界でプレイされているが、特に韓国、日本、台湾、そして米国に根強いファンを持つ。
メイプルストーリーNは、従来のファンだけでなく、ブロックチェーンから興味を抱いて参加する新たなユーザーや、大人になって再びプレイしてみようと考えるユーザーなど、より幅広い層を対象に、グローバルな展開を想定して開発されている。
しかし、大規模に運営されている遊んで稼ぐことが可能なブロックチェーン・ゲームでは、複数のクライアントを同時に実行するなどの不正行為に手を染めるユーザーも後を絶たない。メイプルストーリーはどのようにイカサマ行為に対処しているのだろうか。
ソン氏は、ユーザーによる不正行為は、Web3版だけでなくクラシック版のメイプルストーリーの懸念事項の一つでもあると指摘。20余年サービスを提供する中で、多くのボットや、マクロ、ハッキングが発生した経緯もあり、ネクソンは、ゲームのセキュリティに関する専門チームを抱えているという。
基本的には、ゲームで実行されるハッキングやチートに対抗するツールがセキュリティの中核的な構成要素となっているが、ネクソンはゲームに関連する分析やユーザーの行動パターンについても非常に詳しく調査しているとのことだ。
オンラインゲームの場合は、ゲーム内のユーザーの行動からログを取得し、人間のユーザーなのか、パターンに従って動作するボットなのかを判断する。また様々なデータを駆使して、ほぼリアルタイムでボットを発見し、ゲームに介入してボットを阻止したり、追加で予防のメカニズムを実装しているという。
ネクソンは長年にわたるオンラインゲーム運営の経験に基づき、様々なツールを実装し、予防的および事後対応可能なあらゆる対策を講じて、プレイヤーに安全な環境を提供できるように努力しているとソン氏はまとめた。
Web3ゲームは本気で取り組む価値がある
ネクソンの中核となる主力IPであるメイプルストーリーを、ブロックチェーンに対応させ進化させる冒険に、同社が真っ向から挑む理由について、ソン氏は「この作品を本気でメイプルストーリーシリーズの次の20年間にしたいと願っているからだ」と答えた。
まずはブロックチェーン版の提供が企業として機能するのか、次に長期的に持続可能なサービスとして機能するのかを理解することが目標だ。そして、メイプルストーリーを持続可能な方法で提供できるようになった際に、ブロックチェーンがオンラインPRGとどのように連携するのかについて、深く理解できるようになることが、このチャレンジに取り組む理由だという。
ネクソンの主力IPをブロックチェーンゲームに進化させるということは、ある意味大きな賭けでもあるが、ソン氏は、同社の戦略は「クライアントを超えてゲームを拡張すること」であり、ブロックチェーンの採用自体が目的だったわけではないと言う。
ゲーム体験とIP体験について企業として進むべき方向性が一致しているため、ブロックチェーンを採用して前進するためのリスクを取ることもでき、このアプローチを拡大することに注力することもできるとソン氏は説明した。
これは私たちにとっても革新的なチャレンジだ。Web3分野の未知の出来事に対処し、理解しなければならない課題も山積みだが、メイプルストーリーが先陣を切って成功した暁には、ゲーム業界全体を手助けするような存在になることを心から願っている。
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