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仮想通貨のインサイダー規制導入、市場成熟へ IEO投資上限も提案|金融審議会

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

情報開示制度を抜本強化へ

金融審議会が2025年12月10日に公表した「暗号資産制度に関するワーキング・グループ報告」は、暗号資産規制の根拠法を資金決済法から金融商品取引法(金商法)へ移行させる方針を示した。投資対象としての利用が進展している実態を踏まえ、投資家保護を抜本的に強化する。

ただし、暗号資産は配当や利息といった法的な権利を表章する有価証券とは異なるため、有価証券とは別の新たな金融商品として金商法に位置付けられる。

規制対象は現行の資金決済法で定義される「暗号資産」を維持し、主にゲームやアート等のデジタルコンテンツで利用されているNFT(非代替性トークン)やデジタルマネー類似型のステーブルコインは対象外となる。

国内の暗号資産交換業者の口座数は延べ1,300万口座を超え、利用者からの預託金残高は5兆円以上に達している(2025年10月時点)。保有者の約7割が年収700万円未満の所得層で、個人口座の8割以上が10万円未満という状況だ。取引動機の86.6%が長期的な値上がり期待であることから、暗号資産は決済手段ではなく投資対象として認識されている実態が明らかになった。

2024年1月の米国でのビットコイン現物ETF承認を受けて、年金基金を含む機関投資家による投資事例も増加している。国内でも機関投資家が暗号資産を分散投資の機会と捉え、投資意欲が高まっているとの調査結果が示されている。

資金決済法は決済とマネー・ローンダリング対策を目的とする法律であり、投資商品の規制に不可欠な情報開示義務やインサイダー取引の禁止、適合性の原則といった規制ツールを欠いていた。

一方、金商法は投資性の強い金融商品を幅広く対象とし、業態を問わず横断的な投資者保護を実現する。開示規制、業規制、不公正取引規制、課徴金・刑事罰といった重層的な規制体系を備えており、暗号資産市場が直面する課題への対応が可能になる。

IEOに投資上限も

情報開示制度の強化が投資家保護の核となる。新規発行・販売時には、中央集権的な管理者が存在する場合は発行者が、それ以外の場合は交換業者が情報提供義務を負う。提供すべき情報は、暗号資産の技術、リスク、事業計画、管理者情報、調達資金の使途などだ。

発行者が広く一般投資家からIEOで資金調達する場合、監査法人による財務監査が行われていないときは、利用者が過度な損失リスクを負うことを防ぐため、投資上限が設けられる。株式投資型クラウドファンディング制度を参考に、利用者一人当たりの投資額に上限を設定する方針だ。

交換業者による審査義務も法定化され、第三者の専門家によるコード監査や自主規制機関への意見聴取が義務付けられる。コード監査については、その質を適切に担保するため、法令やガイドライン等において、実施者の専門性や体制等の必要な要件が定められる。

また、インサイダー取引の温床となり得ることを予防するため、発行者及びその関係者に対し、『上場』前及び『上場』後の一定期間(ロックアップ期間)は保有する暗号資産を売却してはならないこととすべきとした。

なお、取扱いが停止された暗号資産について、利用者保護の観点から、利用者がウォレットから移転することは認められるべきとの考えが示されている。

交換業者は第一種金融商品取引業と同等の規制に

暗号資産交換業は、証券会社などが該当する「第一種金融商品取引業」とほぼ同等の厳しい規制下に置かれる。顧客のリスク許容度や投資目的に合わない商品を勧誘しない「適合性の原則」の体制整備が義務化される。

報告書は、一部の交換業者が顧客を手数料の高い「販売所」形式の取引へ意図的に誘導している懸念も指摘している。今後は「最良執行義務」の観点から、サービスのあり方を見直すことが求められる。

サイバーセキュリティ対策では、委託先を含むサプライチェーン全体の包括的な対策強化が法律上の義務となる。交換業者にウォレットシステムを提供する事業者も新たに規制対象となり、行政への届出や安全管理義務を負う可能性がある。

現行法ではホットウォレットで管理する資産についてのみ補償原資の確保が求められていたが、今後はコールドウォレットで管理する資産も含め、責任準備金の積立てまたは保険への加入が必要になる。

投資セミナーやオンラインサロンなど、これまで規制のグレーゾーンにあった暗号資産に関する投資助言も、投資助言・代理業や投資運用業として金商法の規制対象となる。

無登録での営業に対する刑事罰は、現行の「3年以下の拘禁刑」から「5年以下の拘禁刑」へ引き上げられる。証券取引等監視委員会には、裁判所に対して無登録業者の活動差し止めを申し立てる緊急差止命令申立権限が付与される。

インサイダー取引規制で市場の公正性を確保

暗号資産市場へのインサイダー取引規制導入は、機関投資家の本格参入に向けた重要な一歩となる。

規制対象は国内の交換業者で取り扱われる暗号資産で、取引の場を問わず海外取引所やDEXでの取引も含まれる。価格変動を利用した取引を防ぐため、交換業者への正式な取扱申請がなされた暗号資産も対象となる。

規制対象者は、発行者や交換業者の役職員、契約締結先、法令上の権限を持つ公務員など、重要事実にアクセス可能な立場にある者だ。これらの者から直接情報を伝えられた第一次情報受領者も対象となる。

証券監視委には犯則調査権限と課徴金調査権限が付与され、違反が認定された者には不当に得た利益を没収する課徴金が課される。

金融機関の参入拡大、DEXへの対応も視野に

銀行・保険会社の子会社については、暗号資産の売買・仲介、投資運用業、投資目的での保有が認められる方向だ。銀行・保険会社の本体による直接的な取り扱いは、預金者保護などの観点から引き続き慎重な検討が必要とされている。

DEX(分散型金融)については、中央集権的な管理者が存在しないため直接的な規制は困難だが、報告書はウォレットやUI提供者への説明義務や本人確認義務を課すといった、リスクに応じた規制を検討する方向性を示している。当面の対応としては、行政や交換業者が利用者に対し、DEX取引に伴うリスクを十分に周知することが求められている。

暗号資産がグローバルに取引される性質上、不公正取引の調査などで外国の規制当局との協力の枠組みを整備し、国際的な連携を強化していく必要性も強調されている。

今回の改革により、暗号資産取引所(交換業者)はコンプライアンスコストの増大という短期的な課題に直面する懸念もある。

一方で、規制の明確化と市場の透明性向上は、機関投資家の参入を促進し、長期的には市場全体の成長と質の向上につながる可能性がある。日本は暗号資産に対して先進的かつ厳格な規制環境を整備する国として、国際的な地位を確立する方針だ。

関連:金商法移行で暗号資産市場はどう変わる? JVCEA小田会長が業界の懸念に回答|独自取材

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