スプリットトンネルを解説
VPNを利用することで、インターネット利用時に、個人情報などが第三者から閲覧されないように保護できます。しかし、VPNの使用が通信速度を落とすことがあり、その対策のひとつが「スプリットトンネル」です。本記事では、スプリットトンネルとは何か、その仕組み、そしてインターネットを安全に利用するためのVPN設定方法を解説します。
スプリットトンネルとは
VPNは、安全かつ暗号化された「トンネル」のように機能しており、インターネットを構成している複雑な回線を介し、データを移動させています。VPNでは多くの利点が提供されていますが、実社会での交通渋滞のような混雑を、インターネット上で引き起こす大きな原因となることもあります。
VPNを利用する際、全てのデータ、つまり「トラフィック(交通量)」がこのトンネルを介してルーティングされています。VPNは、そのデータがどれだけ重要または機密であろうと、あるいはどこへ向かっていようと、全てのデータを平等に処理しています。
例えば、Google検索も、企業内ネットワーク間での安全なメール送受信やドキュメントのダウンロードも、全て同じプロセスを経て伝達されます。
VPNのデータ伝達能力に限界があることにより、トラフィックの混雑が引き起こされることがあります。大容量のトラフィック、特に組織レベルのトラフィックが日常的にVPNサーバーを介することにより、多量のまたは重要なデータが「詰まって」しまうことがあるのです。
リモートワークをしている人、もしくはインターネット接続に自宅または公共のブロードバンド・ネットワークを利用している人にとって、このような好ましくない経験は死活問題であり、生産性に加え、効率的なコミュニケーションが脅かされる可能性があります。
しかし、スプリットトンネルにより、スピードおよびプライバシー間でのジレンマを打開できます。スプリットトンネルを利用すると、トラフィックを適切なトンネルへと誘導することができ、ユーザーは遅い通信速度を我慢することなく、VPNの利点を享受できます。
スプリットトンネルの仕組み
VPNに接続していない場合、ユーザーは、自身がアクセスしようとしているサーバーに、直接接続しています。例えば、オープン・ネットワーク上でFacebook.comにアクセスする際には、Facebookのサーバーに直接、リクエストを送信しています。
また、ユーザーのIPアドレスや位置情報、クッキー、その他ユーザーが意図的に提出した情報(メールアドレス、ユーザーネームまたはパスワードなど)を含むデータも送信しています。
しかし、オープン・ネットワーク上でデータを送信する場合、第三者にそのデータを監視、記録または利用される可能性もあります。ここで登場するのが、VPNです。
VPNではトンネルを構築し、傍観者や傍受者となりうる人々からユーザーのデータを保護しています。VPNは、ユーザーのホームネットワークから発信されたデータと、そのデータの目的地の間を仲介するサーバーとして機能し、安全なトンネルを構築しています。
例えば、VPNを使用してウェブサイトへデータを送る場合、データは、まず最初に暗号化され、VPNサーバーへ送信された後に、目的地であるウェブサイトのサーバーへ届きます。
VPNユーザーが、どのデータに対してVPNトンネルを利用したいか、どのデータでは利用しないかを決定したい場合、スプリットトンネルが必要になります。スプリットトンネルを利用した場合、二つの経路が作成されることになります。
一つは、VPNを介してデータを送信するためのトンネル、もう一つはVPNを介さないデータ用のトンネルです。
スプリットトンネルの利点
スプリットトンネルを使うことの利点は複数ありますが、この記事では2つを紹介いたします。
VPNトラフィックの減少
スプリットトンネルとは、保護する必要のあるデータを優先するための手段です。これにより、インターネット上の混雑が緩和され、全体的なパフォーマンスが向上します。
VPNトラフィックが減少することにより、インターネットの速度が向上します。VPNは、オンライン上のデータ保護に有用なツールですが、速度が遅いため、全てのオンライン・アクティビティで利用するには困難なこともあります。
しかし、スプリットトンネルの利用により、ユーザーは、VPNを介して機密データをルーティングしながら、オープン・ネットワーク上で動画を視聴できます。この方法により、VPNがより効率的に作動するため、機密情報のアップロードが高速になります。
セキュアなLAN構築
スプリットトンネルにより、複数のネットワークへのアクセス、とりわけ複数のローカルエリアネットワーク(LAN)接続も可能になります。LANでは、自宅やオフィスのコンピューターとプリンターなど、一箇所にあるデバイス同士を接続しています。
しかし、VPNのせいでLANが構築できなくなるケースがあります。例えば、VPNにより、コンピューターと無線プリンターの接続が妨害され、プリンターを利用するにはVPN接続を解除しなければならない場合です。
スプリットトンネルを使うと、VPN接続を解除せずとも、容易にLANに接続できます。
スプリットトンネルの種類
スプリットトンネルには、主に3つの種類があります。
URLベース
URLベースのスプリットトンネルでは、ユーザーは、安全なVPNトンネルを介してからアクセスしたいウェブサイトを選択できます。VPNのメインコンソールから設定するか、ブラウザの拡張機能から設定するかは、利用しているVPNによります。
アプリベース
アプリベースのスプリットトンネルでは、ユーザーは、VPNトンネルを介してアクセスしたいアプリを選択できます。この方法は特に、モバイル端末で有益です。
逆スプリットトンネル
逆スプリットトンネルでは、デフォルトでVPNに接続されます。ユーザーが特別に設定したウェブサイトまたはアプリケーションのみ、VPNを通らずに、オープンネットワークを介してルーティングされます。
スプリットトンネルが必要な時
このような利点を享受できるスプリットトンネルですが、特に利用した方がいいケースとしては、以下の3つがあります。
リモートワーク
ポストコロナ時代では、自宅で仕事をすることが当たり前になっています。その結果、企業やその従業員は、より複雑なサイバーセキュリティを確保する必要が出てきました。
従業員のホームネットワークの脆弱性は、悪用される可能性があります。とはいえリモートワークで働く人々は、日々の作業を行うために、安定していて高速なインターネットに接続する必要もあります。
そのため、スプリットトンネルは、インターネットの速度を落とさずに、企業のデータを安全に保護するための重要なツールとなっています。
個人情報保護
基本的に簡単なブラウジングには自宅のインターネット環境を利用しているけれども、時折高度なサイバーセキュリティを要する個人に対しても、スプリットトンネルは、優良なソリューションを提供しています。簡単なウェブ上でのアクティビティはオープン・ネットワークを介して行う一方、重要な個人情報に関しては、VPN経路を介してルーティングできます。
ジオブロッキングされたコンテンツにアクセス
ある地域で利用不可能なコンテンツにアクセスしたいけれども、VPNを介して全てのオンライン・アクティビティをルーティングしたいわけではないユーザーに対して、スプリットトンネルでは、コネクションの速度を大幅に落とさずに、コンテンツへアクセスするための方法を提供しています。
スプリットトンネルのリスク
スプリットトンネルの利用にはリスクも伴っています。例えば企業などにおいては、従業員がスプリットトンネルを利用することにより、情報漏洩対策ソフトウェア、ファイヤーウォールおよびDNSなど、会社が意図的に設置した保護策が掻い潜られるかもしれません。
またスプリットトンネルにより、従業員は、彼らのアクティビティを記録するソフトウェアを回避したり、特定のコンテントをブロックしてしまう可能性があります。
スプリットトンネルにより、リモートワーク環境のセキュリティに関するリスクも増加します。例えば、従業員のホームネットワークの保護策が適切に講じられていない場合、ハッカーは、そのネットワーク内でオープンになっているチャンネルを通じて、その従業員のコンピューターをウイルスに感染させることができます。
セキュリティが侵害されたコンピューターを使用することにより、ハッカーは、安全なVPNチャンネルへのアクセスを獲得し、コマンド&コントロールセンターへ、有害なファイルを送ることもできます。このようにして、企業や組織のネットワーク全体がリスクに晒される可能性があります。
そのため、スプリットトンネルを避ける人もいます。全てのデータのセキュリティをより高度なレベルで維持したいユーザーは、データを全て安全なVPNトンネルを介して送信したいと思っていることでしょう。
これは「フルトンネル」と呼ばれています。フルトンネルは、スプリットトンネルよりも安全ですが、インターネット回線のスピードが遅くなる可能性が高いです。
スプリットトンネル利用の確認方法
自身のVPNがスプリットトンネルに対応しているかどうかを確認する方法は、いくつかあります。スプリットトンネルがネットワーク上で有効化されていることを確かめるためには、VPNの「設定」または「オプション」メニューを操作してみてください。
スプリットトンネルに関する設定の場所が分かったら、スプリットトンネルがオンになっていることを確認してください。
VPNのスプリットトンネルが適切に機能しているかどうかを調べたい場合にも、検証方法がいくつか存在しています。コマンドラインに慣れている方は、tracerouteコマンドを使用してみてください。
コマンドラインに馴染みがなければ、自身のIPアドレスを表示しているウェブサイトへアクセスしてみてください。VPNに接続していない状態で、ウェブサイトへアクセスし、IPアドレスをメモします。
そして、そのウェブサイトを、安全なVPNトンネルを介してアクセスしたいURLのリストに加えてください。スプリットトンネルが有効化されていることを確認し、VPNをオンにして、再度同じウェブサイトを訪れてみます。
スプリットトンネルが正しく機能していれば、異なるIPアドレスが表示されます。
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