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分散型ウェブがもたらすプライバシー改革とは|オーキッド寄稿

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

Web3.0が変えるプライバシー意識

ここ数年、デジタルテクノロジーの未来を牽引する重要な要素として、分散化が急速に台頭してきました。

金融、ゲーム、NFTなど様々な分野でのブロックチェーンアプリケーションの成長に後押しされ、分散型テクノロジーは、私たちの経済およびそれを支えるデジタルインフラの中核的存在となりつつあります。

この新しい傾向は、いくつかの異なる名前で知られるようになりました。代表的には「Web3.0」、あるいは「分散型ウェブ(Decentralized Web)」などです。名称がどうあれ、この現象は日常生活の多くの分野、特に個人のプライバシーに関して重要な影響を与えることになるものです。

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中央集権型ウェブの現状

分散型ウェブの可能性と、それによるプライバシーへの影響を見ていく前に、インターネットが歩んだ現状に至るまでの道のりを理解することが大切となってきます。

2021年3月に開催されたオーキッドの「Priv8バーチャルサミット」では、プライバシー活動家のエドワード・スノーデン氏が、インターネットの進化に関する不都合な真実を述べました。

関連:スノーデン氏やオードリー・タン氏ら有識者、オーキッド主催のプライバシーサミットに登壇

「私がまだ若かりし頃、インターネットは小さなコミュニティによる、個々の欲望の集合体を表現したものでした。インターネット初期は、商業的な関心があまりなかったのです。」

彼の言うように、インターネット黎明期はオープンソース技術が標準でした。しかし今日では、こうした「創造的で協力的なネットワーク」が「商業的で競争的なもの」に取って代わられています。かつてはオープンソースが主流だったオンライン環境は、私たちの関心やお金、データを奪い合う中央集権的なプラットフォームに取って代わられてしまいました。

このような環境は、少数のビッグテック企業にとって非常に有利なものとなっています。スノーデン氏の言葉を借りるなら、「少数の者に資源が集中する傾向が強まっている」ということになります。

中央集権的ウェブに内在する課題

こうした巨大プラットフォームは、インターネットの存在を支える物理的インフラをも支配しています。例えば、世界中のオンラインコンテンツの3分の1は、Amazon Web Services上で動いており、中央集権的なインフラにほぼ全面的に依存しています。インフラを所有する企業はユーザーの詳細なプロフィールを作成することができ、個人のプライバシー、そして社会全体に深刻な影響を及ぼすことができてしまいます。

さらに、これらの中央集権的プラットフォームは、人々がオンラインで何を見て何を学ぶかについて、膨大な量の権限を持っているのです。つまり、ネットトラフィックを特定のコンテンツに誘導したり、彼らの意向にそぐわないコンテンツを排除したりする力を持っています。

これは、誤った情報の拡散や、党派的、地域的、国家的な分断を悪化させる可能性があります。政府はこのインフラを利用して検閲を行うことができますし、アルゴリズムの微妙な変更によって意図しないキュレーションの偏りが生じる可能性もあります。

それゆえビッグテック企業を解体することで、自由で開かれたインターネットに戻る道が開けるのではないかと提案する人もいます。しかし、それは永続的な解決策にはなりません。インターネットの設計を根本的にアップデートしなければ、新たなプラットフォームを作り出したとしても、やがては以前と同じように中央集権的となり巨大化することでしょう。

より公平でプライベートなインターネットの再生を支援するには、さらに深いレベルでの変革が必要です。つまり、ウェブのインフラ自体を再構築し、それを分散化させていく必要があるのです。

分散型ウェブとは

分散型ウェブがデジタル世界をどのように変えようとしているのかを理解するためには、インフラレベルでの分散化が何を意味するのかを知っておくべきでしょう。

ブロックチェーンによる分散化の原理は、2008年に発表されたBitcoinのホワイトペーパーによって初めて示されました。それ以来、世界中の開発者や起業家たちが、ブロックチェーン技術を使い、融資、保険、美術品、収集品など、さまざまなシステムの分散化に取り組んできました。また、この技術を使って、分散型の投票システムや予測市場、IoTネットワークなども構築されています。

しかし、そこからさらに進展し、ブロックチェーンの原理をインターネット全体に適用すると、「分散型ウェブ」が誕生します。理論的には、この新しいデジタル領域において、人々は中央集権型プラットフォームや仲介者に頼ることなく、現在オンラインで行われているすべてのことを行うことができます。

人々は、個人情報に勝手にアクセスしたり、監視したり、保存したり、漏洩したりする可能性のある第三者を介すことなく、独自にオンラインコミュニティを構築したり、仕事をしたり、買い物をしたり、コンテンツを公開したり、情報を収集したりすることができるようになります。

分散型ウェブのインフラ

分散型ウェブを現実のものとするためには、まずウェブへのアクセスを支える物理的インフラ、またユーザーがオンラインでやり取りするプラットフォーム、そしてオンライン環境で活動するためのIDという、インターネットにおける3つの基本的要素に分散化の原則を適用する必要性があります。

インターネットの分散化を物理的レベルで実現するためには、ウェブを支える現実世界のインフラを、大規模な中央集権型プラットフォームに委ねることはできません。その代わりに、ストレージや演算を行うマシンは、個々のユーザーが所有・運用していく必要があります。

こうしたアーキテクチャを適用させた結果、分散型ウェブは現在の中央集権的なインフラよりもはるかに高い水準でプライバシーを守ることが期待できます。

分散型ウェブにおけるID

真に分散化されたインターネットでは、分散型IDの構築もサポートされなければなりません。

分散型IDとは、ユーザーが自分の個人情報を所有できるようにするものです。現在のインターネットの断片的で中央集権的なインフラでは、ほとんどの人が自分のデータをコントロールすることができません。誰もがウェブベースのアカウントを作成するたびに、名前、メールアドレス、電話番号、政府機関のIDなどを共有するよう促されます。これらの情報を共有すると、基本的に情報を収集した側に個人情報が帰属しますが、そのプラットフォームが情報を非公開に保つかどうかは100%保証されません。

一方、分散型IDは、ユーザーが自分のIDを完全に所有し、管理することを可能とします。これは、あらゆるオンライン環境において、個人情報を第三者に明け渡すことなく、自分が誰であるかを確認する手段を提供するものです。

例えば、トークンやウォレットのアドレスに格納されたIDは、スマートコントラクトと連動し、年齢などの個人情報を第三者に提供することなく、自律的に認証することができます。

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インターネットのプライバシーリスク

インターネットを日常的に利用している人(つまり、世界中のほとんどの人)は、さまざまなウェブサイトやウェブアプリケーションのアカウントを何十個も持っているとされますが、中には一度しか利用しないものもあります。ウェブサイトが私たちのデータにアクセスすればするほど、たとえ小さなデータであっても、そのデータは侵害される可能性が高くなります。

「Googleでログイン」のようなソリューションは、アカウントベースの認証を使いやすいものにします。また、Googleや他の大規模な企業が私たちのログイン情報を追跡し、私たちに代わって本人確認を行うため、ユーザーに安心感を与えるように設計されています。しかし、それはいわば幻想のようなものです。

なぜなら、最近のFacebookによる個人情報流出問題でも明らかになったように、一企業に多くの権力と信頼を集中させることは、ユーザーにとってはリスクを高めるからです。

一方、分散型ウェブでは、ユーザーはどのようなサイトやアプリケーションであれ、安全かつ自動的に個人認証することができます。「Googleでログイン」するのではなく、ブロックチェーンベースのIDによって、ログインの必要性そのものを完全に排除できます。

例えば、IDは分散型ウェブブラウザのウォレットに安全に保管され、ウェブサイトやアプリケーションに組み込まれたスマートコントラクトを通して自動的に検証されることで、ユーザーはプライバシーを守りながら、シームレスかつ安全にインターネットを渡り歩くことができるようになります。

新しい概念「GGG(ジャイアントグローバルグラフ)」

インターネットの機能が増え続け、物理的な世界との融合が進むにつれて、分散化によるプライバシーの確保は、さらに重要になってくると考えられます。インターネットの生みの親として知られるティム・バーナーズ=リー氏は、1998年に「セマンティック・ウェブ」という言葉を使ってこの概念を表現しました。その後、この概念は進化・成熟し、現在では「Giant Global Graph(GGG)」と呼ばれるようになっています。

GGGの登場により、物理的空間とデジタル空間の境界線が曖昧になると多くの研究者が考えています。例えば、「空間ウェブ(Spacial Web)」と呼ばれるインテリジェントなレイヤーは、拡張現実や仮想現実、IoTデバイスやセンサー、人工知能、機械学習などとより相性良く機能するとされます。

また、 「メタバース」を構成する永続的な仮想環境で人々がより多くの時間を過ごすようになったことで、空間ウェブ技術のユースケースは拡大しています。この現象がますます加速する中で、プライバシーを優先して設計されたインフラは、これまで以上に重要となるでしょう。

関連:次世代の仮想空間サービス「メタバース」とは|ブロックチェーンとの関係も解説

スマートデバイスが人々の生活の中でますます重要な役割を担うようになると、デバイスは私たちの行動や個人情報をこれまで以上に把握できるようになる可能性があります。それらが中央集権的プラットフォーム上で作動する場合、私たちのデータが収集され悪用されてしまう可能性のある、一つの障害点となり得ます。

関連:スマホを監視などの脅威から守るための心得|Orchid(オーキッド)寄稿

インターネットとプライバシーの未来

分散型ウェブの登場がインターネットや社会に与える影響力は甚大で、まだその全容は解明しきれていない部分も多くあります。

しかし、完全に分散化されたインターネットでは、革新的な方法で人々がつながることができる世界の構築が可能です。そこでは、デジタル領域における個人のプライバシーや自由に関わる完全な権限を確保できる可能性があります。

オーキッドは、「安全でプライベートなインターネット」というビジョンを実現するため、日々邁進しています。分散化こそがオーキッドのサービス設計における、重要な技術的・哲学的要素となっています。

関連:プライバシー保護にNFT活用へ オーキッドの新たな取り組み

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