
学校をモチーフにしたWeb3イベント
バイナンスジャパンが暗号資産の知識普及を目的に渋谷で開催した「Spring College 2025」。2025年4月3日から6日まで行われた学校をモチーフにしたこのイベントで、同社代表取締役の千野剛司氏と「あたらしい経済」編集長の設楽悠介氏による特別対談「Binanceの秘密に迫る!」が実施された。
初心者から経験者まで幅広い層を対象とした本イベントの特別セッションでは、暗号資産市場の展望やバイナンスの強み、日本における暗号資産の普及についてなど、多岐にわたるテーマが語られた。
金融革新への思いがキャリアを形作る

登壇者
千野剛司(ちの たけし):
Binance Japan株式会社 代表取締役。東京証券取引所での10年以上の経験を持ち、2014年から暗号資産・ブロックチェーン業界に関わる。米Kraken日本法人代表を経て、2022年7月からバイナンスジャパンを率いる。金融のデジタル化と利便性向上を志し暗号資産業界を牽引している。
設楽悠介(しだら ゆうすけ):
株式会社幻冬舎「あたらしい経済」編集長。2017年頃に暗号資産業界に注目し、Web3専門メディア「あたらしい経済」を立ち上げた。ポッドキャスト番組の制作・配信も手がけるなど、暗号資産・Web3の情報発信者として活躍中。
伝統的金融からブロックチェーンへ:両氏の暗号資産との出会い
千野氏は元々東京証券取引所に勤務していたが、「日本の証券市場の仕組みが明治時代から大きく変わっていない」という課題意識を抱いていたという。
「インターネットやデジタル技術で様々なものが便利になっているのに、金融はその恩恵を十分に受けていないと感じていた」と千野氏は語る。この思いが、後に暗号資産・ブロックチェーン業界への転身を後押しした。2014年に東証でブロックチェーン研究に携わり、2018年にKraken日本法人の代表を経て、2022年7月にバイナンスジャパンに参画した。
一方の設楽氏は、2017年頃に暗号資産に興味を持ち、専門メディア「あたらしい経済」を立ち上げた。当時を振り返り、「怪しいイベントが多く、まともな情報発信をしているメディアが少なかった」と語る。
特にビットコインに魅力を感じた理由として、「社長や管理団体が存在しないのに、世界中で機能している点」を挙げる。「これはすごいテクノロジーで、インターネットを変える可能性があると思う」と述べた。
ビットコインの価値とは何か
千野氏はビットコインの価値について独自の見解を示した。「ビットコインがすごいのは、誰が運営しているのかわからない点にある。特定の存在に依存せず、みんながその仕組みを信じることで成り立つ、壮大な社会実験」
貨幣の歴史を振り返り、金本位制から現代の法定通貨に至る流れを説明した千野氏は、「政府の信用力が低い国では、貨幣の価値が暴落することがよくある。そうした状況下で、特定の国や企業の信用ではなく、仕組み自体を人が信用することによって価値が維持されているものに資産を振り向けるというのは、投資家として合理的な判断だと思う」と語った。
設楽氏は技術的側面について補足し、「ビットコインは10分に1回誰かが管理して、不正ができないように持ち回りで管理されている」と説明。「人を信じるよりもシステムを信じる方が安全だと思う人にはビットコインが適している」と持論を展開した。
バイナンスの強みと日本市場での戦略
千野氏によれば、バイナンスは世界140カ国以上で事業を展開し、2億6000万人のユーザーを抱え、全世界の暗号資産取引量の40〜50%を占める巨大プラットフォームだ。しかし日本での知名度はまだ低いという。
バイナンスの強みとして千野氏が挙げたのは「流動性」の高さだ。「取引したい時により有利な価格で売買ができる」というのが最大の特徴で、世界中のユーザーが一つのプラットフォームに集まって売買をしているため、注文の数が多く、より良い価格で取引ができるという。
「バイナンスジャパンは取引所ではなく、日本のお客様の注文を海外のバイナンス取引所に取り次ぐ形をとっている」と千野氏は説明する。これが他の国内取引所との大きな違いだ。
また、バイナンスジャパンは現在59銘柄の暗号資産を取り扱っており、これは日本国内で最多だという。「海外のバイナンスでは500〜600銘柄あるため、早くその水準を目指したい」と意欲を示した。
日本の暗号資産取引の課題
対談では日本の暗号資産取引の特殊性についても言及された。取引方法には「販売所」と「取引所」の2種類があるが、日本では多くの取引所が「販売所」に注力しているという。
「販売所では表示された価格で取引できる反面、スプレッド(仕入れ価格と販売価格の差額)という形で高いコストがかかっている」と千野氏。日本では10%程度のスプレッドが発生することもあるという。
この背景には、日本の取引所が独自の流動性を持たず、海外の取引所から調達し、さらに為替換算のコストも発生するという構造的な問題があると説明された。
税制も課題として挙げられた。暗号資産取引の利益は「雑所得」として総合課税の対象となり、最大55%の税率が適用される可能性がある。「株式の場合は分離課税で一律20%なので、暗号資産も同様の扱いにならないかと議論が進められている」と千野氏。自民党のWeb3WGから、2025年末の税制改正要綱でこの見直しを検討していることも明かした。
暗号資産の実用化と決済への展望
バイナンスは暗号資産の実用化にも注力しており、「Binance Pay」を日本でも提供開始している。2025年4月現在はバイナンスジャパンのユーザー間での送金に限定されているが、将来的には店舗決済や海外送金への展開も視野に入れているという。
「世界的には銀行口座を持たない人が多い地域もあり、そうした場所ではスマホとバイナンスアプリで給料の受け取りや送金、買い物が行われている」と千野氏は説明。暗号資産の実用性が世界で広がっていることを強調した。
バイナンスジャパンの今後の展望について、千野氏は「年内には国内トップ3の一角に入っておきたい」と意気込みを示した。「取り扱い銘柄数を100まで増やし、ステーブルコインの取引も今年中に開始したい」と目標を語った。
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総括
対談を通じて、暗号資産市場の可能性、日本特有の課題、そしてバイナンスジャパンが描く未来像が示された。千野氏と設楽氏の二人は、テクノロジーによる金融の革新という共通のビジョンを持ちながらも、それぞれの立場から暗号資産の未来を見据えていた。
バイナンスジャパンはまだ設立から1年半の若い企業だが、世界的なバイナンスのネットワークと技術力を背景に、日本の暗号資産市場に変革をもたらそうとしている。この動きが暗号資産業界にどのような変化をもたらすのか、今後の展開が注目される。