ステーキング報酬への課税
暗号資産(仮想通貨)のステーキング報酬に対する課税をめぐり、米内国歳入庁(IRS)に訴状を提出したテネシー州の夫婦の主張が認められ、徴収された税金を返還する決定が下されたようだ。米メディア「Blockworks」が2日、情報筋の話として伝えた。
このケースは、ステーキング報酬の税務上の扱いに大きく影響を与える判断となるため、注目が集まっている。
なお、IRSは日本の国税庁に相当する米政府の機関。米財務省に所属する組織で、連邦税に関する法的執行や徴収を行っている。昨年9月に発表された、今年6月30日までの会計年度に優先すべきガイダンス計画には、仮想通貨の税務報告が含まれている。
ステーキング
ステーキングとは、一定量の仮想通貨を所定の期間、ネットワークに預け入れることで報酬が得られる仕組み。PoS(Proof of Stake)のコンセンサスアルゴリズムを採用している通貨で可能。
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ステーキング報酬は所得にあらず
テネシー州在住のJoshua Jerrett夫妻は昨年5月、ステーキングで獲得した8,876Tezosに対する2019年課税年度分の所得税、3,293ドル(約37万7,000円)の返金を要求する訴状を、テネシー州中部地区連邦地方裁判所に提出した。
同夫妻は、所有トークンとコンピュータの計算能力を利用するステーキング活動を通して「新たな資産を創造した」だけであり、所得を得たわけではないと主張。ステーキングを作家の執筆活動やケーキ職人のケーキ作りに、ステーキング報酬であるTezosトークンを、活動の産物である小説やケーキに例えた。
作家が創作した小説を、また職人が焼いたケーキを売って対価を得て初めて、その所得に対し課税が発生するのと同様、連邦所得税法では、ステーキング活動を通して作成された新たな資産(トークン)を所得と見なして課税することは認められていないと訴えた。
ステーキング報酬である8,876Tezosはウォレットに保有されたままで、当該課税年度中に交換・売却された事実もないことも申し添えられている。
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仮想通貨は資産
訴状では法的背景として次のような点が指摘された。
- 連邦税法で仮想通貨は「資産」として扱われる
- 仮想通貨の税務上の扱いを特別に定めた、内国歳入法または同法に基づく条項が存在しない
- 連邦税法上、納税者自身が創造した新たな資産は所得と見なされない
Jerrett夫妻に所得税納入の義務が生じるのは、トークンを売却、または交換した時点だと訴状はまとめている。
英国の場合
一方、英国の歳入関税庁(HMRC)は昨年3月、新たな仮想通貨の課税ガイダンスで、初めてステーキングの扱いについても言及。活動の程度、関連組織、リスク、商業性等の要因を検討した上で、課税対象となる可能性が指摘された。
ステーキング報酬を仮想通貨として保有している場合は、売却時にキャピタルゲイン税や法人税が発生する場合も考えられるとのことだ。
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仮想通貨同士の交換は課税対象
米国では同種の資産を交換した場合、その資産の売却時まで課税対象とならないという制度がある。しかし、2017年の税制改革によって、2018年以降の仮想通貨の取引についてはこの「同種交換(Like-Kind exchange)」のルールが適用されないことになった。その後、2019年11月には、この方針が2018年以前にも適用されると発表された。
仮想通貨同士の交換、例えばビットコインとアルトコインの交換は課税対象として処理される。
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