はじめての仮想通貨
TOP 新着一覧 チャート 資産運用
CoinPostで今最も読まれています

ビットコインが法定通貨になったエルサルバドルへ行ってみた|体験記寄稿3 ビットコインを世界で初めて法定通貨に採用し7ヶ月が経過したエルサルバドルで垣間見た現実

画像はShutterstockのライセンス許諾により使用

エルサルバドル滞在紀行

エルサルバドル訪問記第3弾はビットコインビーチの知られざる起源についてお伝えします。

ビットコインビーチについては、過去に日本のメディアも取り上げており、数年前に始まったビットコイン循環経済圏として知られていますが、そのルーツは実は10年以上も前に遡ります。

今回コミュニティリーダーRoman Martínez氏への現地インタビューで知ったその起源は、Bukele大統領がビットコインを法定通貨化した理由にも通じます。内戦下で生き延びることに精一杯だった自分たちが子どもの頃には持ち得なかった希望を自分たちの子どもには持ってほしいとの思いで、ビットコインをコミュニティや国家の変革手段として利用する彼らと、インフレヘッジや投機対象など保有資産を守るまたは増やす手段として使う私たち先進国国民の間には大きなギャップがあります。

当たり前のように金融サービスを利用でき、財産権も保証されている、つまりビットコインを必要としない環境で暮らせること自体、今の世界ではほんの一握りの人しか持たない特権です。ビットコインが不要なら単に使わなければよいのです。必要としている人から取り上げようとするのは無知で傲慢、あるいは法定通貨制度下で得ているレント(超過利潤)を必死で守ろうとする醜態をさらけ出すようなものです。

既存金融のエリート、IMF、EUによるビットコインは悪という前提での議論、規制の背後にあるのは、この共感能力の低い人たちの思い上がりと、不当に得た権力と利権を手放したくない人たちの悪あがきではと思わずにはいられません。

ビットコインビーチの起源

サーフシティの一角をなすEl Zonteは、数年前からビットコイン循環経済の実証実験が行われており、通称ビットコインビーチとして知られています。

事の始まりは2019年春、人口約3000人の小さな漁村El Zonteにサーフィン目的で通っていた匿名ビットコイナーが10万BTC(当時のレートで約4億ドル、現レートで約46億ドル)を寄付したことです。寄付には「ビットコインを法定通貨に交換しない」という条件がつけられていたことから、法定通貨を介在させずビットコインだけで日常生活が完結するビットコイン循環経済がスタートしました。

ビーチのゴミ拾いなどのコミュニティサービスの参加報酬や生活支援金をビットコインで払うからと村民にLightningウォレットのインストールを促すと同時に、Lightning決済を受け付ける商店を増やしてきました。

筆者提供。El Zonteの商店。掘立小屋のように小さく簡素ですが、食品から服、日用品などの生活必需品はもちろん、水着や日焼け止めなど観光客向け商品も充実しています。店舗ごとに固有のQRコードが掲げてあり、顧客はコードをスキャン後に金額を入力して支払います。El Zonteで広く使われるフランスGaloyが開発するBitcoin Beachウォレットの他、アメリカのStrikeのサインも多く見られました。

2021年にはコミュニティ会館Hope House(希望の家)が完成し、村民にビットコインや金融、英語、プログラミングなどの教育を提供する拠点となっています。

筆者提供。Hope Houseを株式会社Nayuta 代表取締役CEO 栗元憲一氏と訪問。右から2番目がMartínez氏。ビットコインロゴの入ったビットコインカラーの車を購入したおかげでコミュニティ活動の幅も拡大。

今回のHope House訪問の第一目的は、昨年12月に朝日新聞がビットコインビーチについて報じたMartinez氏の写真入り記事を届けることでした。事前に届けに行くことを伝え、楽しみに待ってくれていたにも関わらず、当日ホテルに新聞を忘れるという大失態を演じます。後日改めて届けることで許してもらい、 Martinez氏に話を伺いました。

Martinez氏が生まれ育ったEl Zonteには、生活のために両親が危険を冒してアメリカに渡り、祖父母や親戚に育てられる友人がたくさんいました。そんな友人たちも10代後半になると渡航費を貯めてアメリカに移住してしまいました。国内の雇用が非常に限られており、家族を養うという当たり前のことをするための唯一の手段がアメリカで働くことなのです(国民の約4割がアメリカで働き、彼らからの仕送りはGDPの23%も占めています)。好んでアメリカに移住するわけではなく、できるなら地元に残りたいと思っている人が大半です。

そんなEl Zonteで2009年に始まったのが「Llenando el Tanque de Amor de los Niños y Niñas del Zonte(El Zonteの子どもたちを愛で満たす)」プロジェクトです。地元で生まれ育った20代の若者Jorge Valenzuela氏が奥様のCristina Guillen氏と一緒に立ち上げました。そこにアメリカのサンディエゴからEl Zonteに足繁く通っていたサーファーのMichael Peterson氏がメンターとして加わります。その後も現在ビットコインビーチの教育活動を統括するHirvin Palma氏やスポーツ娯楽プログラム担当のMartinez氏が加わります。

プロジェクトは両親がアメリカに移住し寂しい思いをしている小さい子どもたちを対象にサーフィン、体操、料理などを一緒に体験することで友だちやコミュニティの大人との繋がりを深める場を提供するほか、10代の若者には英語やプログラミング教育、大学進学のための奨学金を提供してアメリカに渡らなくても生きていけるようなスキル習得を促してきました。その名の通り、El Zonteの子どもたちを愛で満たし、それまで存在しなかった将来の選択肢を与えているのです。

筆者提供。旅行に同行した姪は子どもたちに英語とダンスを教えたいとHope Houseのプログラムにボランティアとして参加しましたが、結局、泥遊びや鬼ごっこに終始したそうです。子どもたちは皆、素直で人懐っこくあっという間に時間が経ち、再会を誓って別れたそう。

こうしたプログラムの運営資金は主にPeterson夫妻がアメリカで集める寄付が頼りでした。そこに2019年、10万ビットコインが届けられたのです。

潤沢な資金を確保しただけでなく、プロジェクト参加者だった子どもが成長して運営スタッフに加わるなど、運営体制は大幅に増強されました。現在では21ものイニシアティブが同時進行しています。ビットコイン循環経済という目新しい社会実験がメディアで取り上げられるようになると、エルサルバドル国内の他の村が視察に来たり、ノウハウ伝授の要請が寄せられるようになりました。今はサーフシティを中心に5つの村でサーフィンや英語など一部のプログラムを実施しています。

インタビューを終えての所感

Martinez氏へのインタビューを終えて感じたのは安堵です。エルサルバドルという国にビットコインが定着するかはBukele大統領の政治力次第です。失脚すれば、たとえビットコインが国に利益をもたらしたとしても、前政権のレガシーとしてひっくり返される可能性は小さくないと考えています。安堵の理由は、国としてハイパービットコイン化が叶わなかったとしてもビットコインビーチは存続できると思ったからです。

ビットコインで巨額の寄付を得たことをきっかけに数年前に始まったばかりのプロジェクトだと思ってましたが、13年もの運営実績を持ち、ノウハウと人材が蓄積されていると知って、国の方針とは関係なく、El Zonteではビットコインが日常生活の中で今後も利用され続けるだろうと確信しました。それで十分です。ある意味、こうした草の根運動的な方が、法律で強制通用力を持たせるよりもビットコインらしいですし。

ビットコインビーチの知名度が上がったことで、ビットコイン循環経済をスタートする動きが中米に広がる兆しが見えており、お隣グアテマラではビットコインレイク、コスタリカではビットコインジャングルというプロジェクトが始まっています。こちらもぜひ近いうちに視察に訪れたいです。

Martinez氏にEl Zonte以外ではビットコインが使える店舗は1割くらいしかなく、国民もChivoを使っていないことに少しがっかりしたと伝えると、「ビットコインという言葉を初めて耳にしたのはいつだ?」と聞かれ、「2014年ごろ」と答えると、「ビットコインを初めて買ったのはいつ?」と聞かれ、「2017年」と言うと、「ここも同じ。10ヶ月前に初めてビットコインという言葉を聞いた人が大半。法が施行されてまだたった7ヶ月。君みたいに3年も要しないことを願うけど、時間がかかるのは仕方ない。」と諭されました。もっともです。

声が大きく、エネルギーに満ち溢れたMartinez氏がビットコインとEl Zonteについて熱く語るのを聞きながら、何度も頭に浮かんだのは「ビットコインは希望」というフレーズです。ビットコインのおかげで将来に希望を持てるようになったという人がいる。それだけでもビットコインは成功、ビットコインの勝利と言ってよいのではないでしょうか。

続きはこちら:ビットコインが法定通貨になったエルサルバドルへ行ってみた|体験記寄稿4

寄稿者:練木照子(Teruko Neriki)練木照子(Teruko Neriki)
ビットコインとライトニング関連スタートアップへの投資に特化したVCフルグルベンチャーズ所属。「ビットコインスタンダード」「ビットコイン、強気にならずにはいられない理由」「ビットコインの歩き方」翻訳出版。ビットコイン研究所について詳細はこちらからご覧いただけます。
CoinPost App DL
注目・速報 市況・解説 動画解説 新着一覧
12/02 月曜日
19:45
SBI VCトレードとメタプラネット、総額3000万円相当のビットコインが当たるキャンペーンを発表
暗号資産取引大手のSBI VCトレードが、メタプラネントと共同で総額3000万円相当のビットコインプレゼントキャンペーンを開始。2024年12月31日時点のメタプラネント株主(100株以上)が対象。新規口座開設で2350名に当選のチャンス。応募期限は2025年3月31日まで。
14:31
分散型IDインフラzkMeネットワーク、新たな報酬プログラムを導入へ
ゼロ知識証明を活用した分散型IDインフラzkMeネットワークが、新たなトークノミクスを発表。報酬プログラムを導入する。
14:25
米資産運用会社モルガン・クリークCEO、来年注目の「アルトコイン5選」に言及
米資産運用会社モルガン・クリークのマーク・ユスコCEOは、2025年に注目するアルトコイン5銘柄に言及。ビットコインについては、まもなく10万ドル(約1500万円)を突破し、大きな放物線の上昇を見せるとの予想を披露した。
11:38
XRPが約7年ぶり水準の2.5ドルに高騰、SOLを抜き時価総額3位へ浮上
暗号資産(仮想通貨)相場では、リップルの開発するXRPが2018年1月以来約7年ぶり水準の2.5ドル(370円)水準に高騰し、時価総額ランキングでソラナ(SOL)を上回った。その背景は?
11:14
Japan Open Chain、IEO先行優先販売が完売  特典付き募集は12月3日まで受け付け中
Japan Open ChainのIEO先行優先販売が完売。特典付き申込は12月3日まで受付中。一般販売情報やJOCトークンの特徴を解説。
09:43
DMMビットコインが事業撤退 SBIVCトレードに顧客資産譲渡へ=報道
不正流出事件の発生した仮想通貨取引所DMMビットコインが、経営立て直しを断念し廃業方針を決定した。日本経済新聞が報じた。顧客資産はSBIVCトレードに譲渡される見込み。
12/01 日曜日
13:01
今週の主要仮想通貨材料まとめ レイヤー1銘柄の年初来上昇率・アバランチ大型テストネットなど
暗号資産(仮想通貨)の材料まとめ 前週比の騰落率(11/24〜11/30) ビットコイン(BTC):$97,417ドル -1.9% イーサリアム(ETH):3,595ドル +9…
11:31
1400万円台で推移のビットコイン、この先は激しい上下の値動きに注意|bitbankアナリスト寄稿
bitbankアナリストが、1400万円台で推移する今週のビットコイン(BTC)相場を分析。10万ドルの壁を突破できれば、FOMOによって相場が走ると想定するも、CMEのビットコイン先物では7.8万ドル〜8万ドルの間に窓が開いている点にも言及した。
11:00
週刊仮想通貨ニュース|XRPやSOLOなどの価格高騰に高い関心
今週は、仮想通貨XRPやSOLOなどの価格高騰、ビットコイン売却観測に対するマイクロストラテジーのマイケル・セイラー会長の対応、ビットコイン長期保有者の売却に関するニュースが最も関心を集めた。
11/30 土曜日
20:10
ビットコインは今後どうなる?2025年に向けた注目点、価格予測
ビットコインは2024年初から高騰して1400万円を突破し10万ドルに迫る。トランプ大統領の返り咲きと政権交代、ETF上場、FRBの金融緩和という3つの大きな変化を背景に、主要金融機関は2025年の価格予測を公開。機関投資家の参入と半減期後の需給動向から、今後の展望を徹底解説します。
13:35
米FRB利下げが仮想通貨・株式市場に与える影響は? バイナンスリサーチ分析
バイナンスリサーチが、FRBの利下げがビットコインなど仮想通貨や株式市場に与える影響を分析するレポートを発表した。
11:45
フランス高級デパートが仮想通貨決済を導入、バイナンスペイなどと提携
フランスの高級デパート「プランタン」は今週、欧州初の事例として仮想通貨決済を導入することを発表した。
10:50
ロシア、仮想通貨マイニングに課税制度を導入 プーチン大統領が法律に署名
ロシアで仮想通貨マイニング収益への課税を規定する法律が成立した。ロシアは国際取引での仮想通貨決済も限定的に解禁している。
10:10
承認間近か、リップルのステーブルコイン「RLUSD」 ニューヨークで
FOXビジネスの29日の報道によれば、米ニューヨーク州の金融規制当局が、リップル社の新しいステーブルコイン「RLUSD」を承認する可能性が高まっている。ニューヨーク州金融サービス局は、12月4日を目処にRLUSDを承認する見込みだという。
09:25
「今日のミームは明日のETFになる」ドージコイン現物ETFの実現可能性は? アナリストが見解
ドージコインは元々ジョークとして始まったが、現在では時価総額約620億ドルの第7位の仮想通貨に成長。アメリカの新政権の動きや仮想通貨規制の進展を背景に、ドージコインETF承認への期待が高まる中、ウォール街の反応や今後の展望を探る。

通貨データ

グローバル情報
一覧
プロジェクト
アナウンス
上場/ペア
イベント情報
一覧
重要指標
一覧
新着指標
一覧