企業の秘密鍵管理
2023年7月に開催されたWeb3の国際カンファレンス「WebX」で、double jump.tokyo株式会社(以下、DJT)で執行役員を務める青木宏文氏が「Web3ビジネスにおける秘密鍵管理の課題と解決方法」をテーマに講演を行なった。
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秘密鍵とは、暗号資産(仮想通貨)やNFT(非代替性トークン)などの資産の所有者であることを証明するための暗号コード(文字列)のこと。銀行口座で例えると、暗証番号にあたる。
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中央集権型の取引所を使っているだけだと意識することはないが、「メタマスク」などのウォレットを自身で作成すると、秘密鍵を自分で管理することになる。秘密鍵が他者に知られると資産の流出につながるため、取り扱いには細心の注意が必要だ。
今回、青木氏が講演で話したのは、企業の秘密鍵についてである。
秘密鍵管理の課題
青木氏はまず、秘密鍵とは何かを解説。仮想通貨の送金だけでなく、NFTの発行・運用やスマートコントラクトのデプロイ(展開)など、様々な状況で秘密鍵が必要になると話した。その上で、秘密鍵管理における課題の1つは「セキュリティ」であると述べている。
企業で秘密鍵を管理する場合は、漏洩リスクを排除しながらステークホルダーでどうやって共有利用するのかが非常に重要なポイントになると指摘。その際、チームメンバーが独断で仮想通貨の送金などを行えない仕組みを導入することも必要だと述べている。
課題については上場企業であれば、高水準のガバナンス(企業統治)や内部統制が求められるとし、秘密鍵の運営や管理が非常に負担になると指摘。
また、スタートアップ企業については、上場企業のような高水準の管理は求められないが、一般社員らに安易に秘密鍵を渡すことはできないため管理が役員らに属人化してしまって、成長過程で事業を拡張することが困難になるという課題があると語った。
課題の解決方法
こういった課題の解決方法を、青木氏はDJTが開発・運営しているプロダクト「N Suite(エヌ・スイート)」を引き合いに出して説明。N Suiteは企業向けのウォレット機能を備えたWeb3ビジネス・ソフトウェアであり、青木氏はN Suiteの事業責任者を務めている。
青木氏が説明したN Suiteの主な機能は以下。上述した課題の解決には、以下のような機能が必要になることを示している。
- 秘密鍵を安全に共有できる機能
- 内部統制を実現するワークフロー機能
- オペレーションを効率化する機能
安全に共有管理できる機能については、「クラウド型」と「マルチシグ型」という2つのオプションを提供していると説明。どちらも、社員に秘密鍵そのものは渡さずに共有できる仕組みを導入していると語った。
具体的には、クラウド型では各企業がそれぞれ契約しているクラウド上に秘密鍵を保管し、秘密鍵を使う権限のみを関係者に付与する仕組みを構築。退職などで担当者が変わるなどする場合は、権限を削除すれば秘密鍵にアクセスできないようになるとした。
マルチシグ型では、複数人の署名がないと送金などを行えない仕組みを構築。独断で行動されないようなオプションも選べるようにしていると説明した。
内部統制と効率化
内部統制を実現するワークフロー機能については、秘密鍵を使うために申請を行う必要がある仕組みを導入。申請をした後、管理者が承認しないと秘密鍵を使えないようにして、内部統制を遂行できるようにしている。
一方、安全性や統制を強化しながら、オペレーションにおける効率性向上にも取り組んだ。例えばNFTを発行するための画面(ユーザーインターフェース:UI)をわかりやすくし、発行数などを画面上で確認しながら操作できるような仕組みも導入した。
また、青木氏はN SuiteがAWS(アマゾンウェブサービス)の基準をクリアし、AWSの認定ソフトウェアになっているとも説明。N Suiteの目的は「Web3ビジネスの裏側のオペレーションをスムーズにしつつ、いろいろな課題を解決して、企業がWeb3ビジネスの価値提供そのものに集中できるような環境を提供すること」だと話している。
登壇時点でN Suiteは、スタートアップから上場企業まで60社以上が使用。公式ウェブサイトによれば、KDDIやソフトバンク、NTTデジタルらの大手企業も導入している。
今後については、秘密鍵管理を軸としつつ、オペレーションを効率化するような機能をさらに増やしていくなどし、Web3のポテンシャルを発揮できるような機能を提供していけるよう目指すとしている。
DJTについて
DJTは2018年4月創設。本社は東京にあり、事業内容はブロックチェーン技術を用いたゲームおよびアセットの開発・運営・販売である。
公式ウェブサイトでは「ブロックチェーン技術でゲームの未来を再構築する」ことをビジョンとして掲げているが、現在は事業を多角化。N Suite以外にも、NFT事業支援サービス「NFTPLUS」も提供している。
NFTPLUSについてDJTは2021年12月、株式会社手塚プロダクション初の公式NFTプロジェクトのジェネレーティブアートNFT「鉄腕アトム」が、約1時間で完売したことを発表。この販売が、NFTPLUSを通じて行われた。
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ゲームについては、ブロックチェーンゲーム「Battle of Three Kingdoms」の開発などを手がける。Battle of Three Kingdomsは、セガの人気ゲーム「三国志大戦」のIP(知的財産)を活用したもので、リリースは2023年内の予定だ。
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DJTにはこれまで、バンダイナムコ、セガサミー、bitFlyer、Circle Ventures、電通ベンチャーズ、Fenbushi Capital、Polygon Venturesらが出資している。
昨年4月には、約30億円の資金調達を発表して注目を集めた。その際、調達した資金はパートナー企業とのIPを活用したブロックチェーンゲームの開発・支援のほか、人材採用や組織体制の強化に投資すると説明した。
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ほかにも昨年7月には、コーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)事業を行うため、「double jump.ventures」を立ち上げたことを発表。DJTの経営ビジョンに近いWeb3プロジェクトに対し、協業パートナーとしての事業投資を予定していると説明した。
double jump.venturesの投資事例としては2022年10月、韓国のブロックチェーンゲーム開発会社「EPIC LEAGUE」へ投資家として参加したことをDJTが発表。その際、両社は事業の相乗効果が高く、お互いのノウハウを活かしたゲームの共同開発や、お互いの国でのマーケティングなどの連携についても期待していると述べた。