オントロジーのWeb3インフラを総括
Web3に向けた分散型IDソリューションおよびデータ特化型のオープンソースプラットフォームを開発するOntology(オントロジー)は、「オントロジーWeb3ネットワーク(OWN)」と呼ばれる独自のインフラを構築中です。
この記事ではまず、DeFi、NFT、メタバース、DAOなどが抱える「Web3の問題点」について言及されます。そして信用ベースで構築される「Web3時代の新たなインフラ」が、いかに問題解決に役立つのかについて、その技術的バックボーンとなるアプリケーションと共に詳しく解説します。
Web3が抱える問題
Web3は、社会全体の運営方法を活性化し、信用が連携する新時代を切り開くために生まれたものです。
技術的・経済的に優れた利点を持つWeb3では、ユーザーがネットの世界でより自律的に行動できるようになり、データはもはや少数のハイテク企業の手中に独占されなくなります。より多くの人々が共通のガバナンスに参加することで、権利、情報プライバシー、著作権などの原則をより強固に保護することができるようになるでしょう。
この新たなタイプのテクノロジーは、いくつかの問題も露呈しています。それは主に、ソーシャルコラボレーション、コミュニティガバナンス、オンチェーン取引中のコンテンツ作成などのような各分野で顕在化します。これらはまだ中央集権的なプラットフォームに依存しており、DeFi(分散型金融)エコシステムの金融活動においては、大型な分散化は現時点であまり主流ではありません。
つまり現実には、Web3の社会的関係には、真の信用を生み出すのに必要な基本的要素がまだ欠けているのです。
適切なインフラがあれば、現在のシステムのボトルネックを取り除き、長期的かつ効果的な社会的信用とWeb3内のコラボレーションを生み出すことができるでしょう。
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各分野における「信用連携」構築の重要性
では、上記のような問題を解決すべく取り組まれている信用連携の構築についてみていきます。
DeFiにおける信用
DeFi(分散型金融)は、いわば従来の金融システムをブロックチェーン技術で作り直したものです。最も注目すべき点は、DeFiは中央集権的な金融プラットフォームによる悪意ある行為のリスクを防ぐことができることです。
DeFiの中でも重要な要素として、分散型レンディングが挙げられます。分散型レンディングは、ユーザーが一連の身元確認証明書を提出する必要がないため、中央集権型の金融機関が強制する参加への高い敷居を低くすることができます。その代わりに、個人は超過担保という形で資産の担保を提供するだけで融資を完了させることができます。超過担保そのものは先進的な金融資源配分法とは言えないものの、分散型レンディングを通じた「借り入れ」という形での信用貸付が具体化されつつあります。
「Wing Finance」は、Inclusive PoolおよびOScoreというスコアリングシステムが立ち上がった際、信用貸付における最初のDeFiプロジェクトとなりました。ユーザーが独自にOScoreに自分のデジタル資産の取引記録、保有量、KYC(実名認証)状況、デフォルト、過去の信用データを読み取る権限を与えると、自動的に自分のOScoreスコアが生成されます。
信用貸付が全面的に安全であることを保証するために、Inclusive Poolはリスクコントロールの仕組みを確立しています。一度デフォルトしたユーザーはOScoreのデフォルトリストに含まれますが、デフォルトした人の個人情報は隠され保護されます。同時に、清算や罰金などのメカニズムもあり、ユーザーはプライバシーを保護しながら、OWNインフラを通じて信用貸付を完了させることができます。また、個々のユーザーは、チェーン上での自らの評価に基づき、程度の差こそあれ、ガバナンスに参加することもできます。
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NFTの流通
アセットが一般的に交換可能である一方、NFT(非代替性トークン)に代表される非代替性アセットクラスも存在します。
初期のNFTゲームCryptoKittiesから、Bored Apes Yacht Clubなどのプラットフォームが作成した一連のアバターまで、NFTはWeb3分野の中心的商品となり、多くのクリエイターとバイヤーを魅了しています。NFTは生成から付与、そして焼却(バーン)に至るまで一連の流通過程を経ます。
ただ、NFTはその価値ゆえに、著作権や帰属権、メタデータの見直し・再定義が必要です。このため、「POD」では、オンチェーンメタデータの保存・整理・管理・利用を行い、実体ベースの保存と定義、そしてクロスプラットフォームでのデータ整合性を実現する方法を提案しています。
メタバースの創造
メタバースとは、現実世界と並行した仮想世界を指し、コンテンツ制作、経済システム、ユーザー体験、物理世界のコンテンツに画期的な変革をもたらすものとされています。
ブロックチェーン技術に基づく経済システムを構築し、経済システム、社会システム、アイデンティティシステムにおいて、仮想世界と現実世界を密接に統合することが可能になります。メタバースは、ゲームやバーチャルアバターなどの様々な形で現れ、世界中で大きな人気を博しています。
メタバースにおいて、ユーザーの権利や個人資産を保護しつつ、現実世界のアイデンティティをどのように結びつけるかは、イノベーションの最前線といえます。「ONT ID」は、オンチェーンとオフチェーンのアイデンティティを結びつけ、仮想資産の所有権を確認し、証明書を発行し、さらにユーザーのアイデンティティに帰属させることを支援します。これらの機能は、メタバースにおいてユーザー同士が安全に交流するために不可欠な要素であり、仮想世界における信用と連携の確立をさらに促進するものです。
DAOにおける信用構築
OWNインフラにおけるアイデンティティ関連のソリューションは、DAOのメンバー構造をスクリーニングする際にも重要な役割を果たすでしょう。
それはまず、参入閾値を設定するのに役立ちます。DAOのメンバーになりたいユーザーは、正式に投票に参加する前にKYC認証を通過し、高い信用スコアを獲得する必要があります。これにより、大量の偽アカウントをフィルタリングし、チェーン上のユーザーからのアクティビティを確保することができます。
その結果、DAOの開発はOrangeがOWNで提供するサービスと密接に統合され、中央集権化による問題を削減することができます。これは、ユーザーの評判に応じて投票の重みを決めることで実現されます。参加率が高く、信用度も高いユーザーは、ガバナンスに参加する権利も相対的に大きくなります。
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信用に基づくインフラ
以上を踏まえ、「オントロジーWeb3ネットワーク(OWN)」インフラストラクチャがいかにしてWeb3時代の信用連携・およびその構築に役立つのかについて、さらにみていきましょう。
ベースレイヤーにおける強固な基盤を提供
高性能で完全にスケーラブルな基礎となるパブリックチェーンは、オンチェーン・トラスト・エコシステムでの長期的な成長を構築するために不可欠です。
「オントロジーWeb3ネットワーク(OWN)」インフラストラクチャは、効率的で互換性があり、安全なパブリックチェーンをベースレイヤーに提供します。分散型アプリケーションの開発、ネットワークの混雑、高い取引手数料、長い取引確認時間などは、しばしばユーザーエクスペリエンスに悪影響をもたらすことがあります。
これに対し、OWNインフラストラクチャは、独自の合意形成メカニズムである「検証可能ビザンチン・フォールト・トレラント性(VBFT:Verifiable Byzantine Fault Tolerance)」と「Optimistic Rollup」によるレイヤー2ソリューションにより、これらの問題を解決することが可能です。これにより、同プラットフォームは1秒間に5,000件以上のオンチェーン取引を処理することが可能です。
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プラットフォームのスケーラビリティという点においては、OWNのインフラは複数の言語とプロトコルをサポートします。EVMの統合に続き、4種類のコントラクトをサポートし、マルチチェーンやクロスチェーンでのコラボを実現しました。これにより、プロジェクト関係者がOWNをベースにアプリケーションを構築した場合、イーサリアムプラットフォームへ容易に移行することもできます。また、そのデータを複数のチェーン上で同期させることで、複数のチェーンにまたがる包括的な統合を実現することができます。
プロトコルレイヤー技術がアイデンティティの意味づけを強化
基盤となるプロトコルレイヤーは、信用連携を促進するための重要な橋渡し役となります。
Web2時代のアイデンティティは、主に出自や現実の職業にまつわる情報を指していました。Web3時代では、アイデンティティはより多様な意味合いを持つようになります。
ユーザーがチェーン上で様々な活動をするためには、アドレスというデジタルIDが必要です。チェーン上での活動は、送金や寄付などの金融活動が中心だと思われる方も多いかもしれませんが、そうでもありません。最も重要な要素はユーザー自身です。ブロックチェーン技術に基づき、最初から最後までKYCによって検証された有効なオンチェーンユーザーを伴った状態で必要なデータと情報が行き交うことになります。
そのため、信用連携を支えるプロトコルレイヤー技術も重要な役割を担います。学歴詐称、なりすまし、オンライン詐欺などは、すべて信用と連携の盲点の現われです。ここで、分散型IDプロトコル「ONT ID」のSDKツールが、学歴詐称などの問題を解決するのに役立ちます。
例えば、「検証可能なクレデンシャル(VC)」を発行することで、教育機関はクレデンシャルの署名と有効期間を確認し、信頼できる情報であることを確証させることができます。また発行者にとっては、VCを利用して検証者のために個人の免許証のステータスを明示することができます。これらのVCは、ユーザーが作成・管理する分散型アイデンティティと結びつけ、様々な分野のニーズに合わせて選択的に表示することが可能です。
アイデンティティにまつわる問題に対処できれば、レピュテーションやデータ処理の管理に対する需要も高まります。そのため、次に紹介するOrangeとPODは、レピュテーションとデータ処理の可能性を最大限に引き出すためのソリューションを提供します。
「Orange」は、分散型レピュテーションに準拠したプロトコルです。さまざまなアルゴリズムを使用して、異なるブロックチェーンエコシステムにおけるユーザーの分散型アイデンティティに関連するデータを計算し、ウェブ全体でユーザーの評判を統合し、Web3のどこでも使用および共有することが可能です。
また「POD」は、複数のブロックチェーンネットワークにまたがるメタデータ処理を可能にする、データ連携のためのWeb3オンチェーンデータミドルウェアです。データの取得から関連付け、活用まで、データ管理を横断的に解決することができます。それによってPODは、すべてのメタバースデータを単一のインターフェースで管理することで、開発者、構築者、そしてユーザーがメタデータを扱うことを容易にし、より豊かなエコシステムの構築を可能にします。
アプリケーションレイヤーでユーザーを効果的につなぐ
トークンエコノミーが支配するWeb3のプロダクション関係において、信用連携は金融活動にしか関係しないと世間では誤解されがちです。しかし、これは事実ではありません。
暗号資産(仮想通貨)の普及が進むにつれて、ユーザー資産のデータ管理やセキュリティに対する要求も高まっています。そのため、資産管理アプリケーションだけではもはや十分ではありません。「ONTO Wallet」は、基本的なオンチェーン資産管理機能を提供するだけでなく、分散型IDなど、より広いWeb3のニーズに対応できる革新的な機能への道を切り開いています。各ウォレットユーザーは、モバイルクライアントやデスクトッププラグインアプリケーションを通じて、自分自身の分散型デジタルIDを作成することができます。ユーザーが所有する資産やチェーン上の取引は、KYCで検証されたIDに記録され、その後、個人は独立してデータを管理することができます。ONTO Walletは「Web3ゲートウェイ」と位置付けられており、現在最大25のチェーンをサポートし、より幅広いWeb3ユーザーのニーズに応えるべく、拡張を続けています。
またユーザーは、ONTO Walletを利用することで、チェーン上での行動に応じて対応する信用ポイントを生成することができます。ユーザーがONTOウォレットで所有するDID(ONT ID)は、ユーザーの社会的関係を表し、他のユーザーや応募者と交流する際の基準として利用することが可能です。信用スコア(OScore)が高いユーザーは、デポジットなしでデジタルウォレットを通じて車をレンタルすることなどもできます。また、個人の学歴や資格などの重要な情報もDIDと密接に関連し、ウォレットに保存されます。
OWNでは、関連するONT IDのプロトコルレベルの製品も、他のプロトコル群を含んでいます。それらは、ユーザーのログイン体験を最適化する分散型ログインコンポーネント「ONTログイン」、KYCサービスを提供する「ONT TAG」、Web3アプリケーション用のピアツーピア通信プロトコル「Mercury」です。これらの製品を組み合わせることによって、すべての関係者がWeb3サービスを提供・利用するための十分なチャネルを構築するとともに、分散型アプリケーションの構築を支援・加速させることができます。
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共通・互換性のあるインフラ
総合的な社会的信用の創造を実現するためには、上記のようなベースレイヤー、プロトコルレイヤー、アプリケーションレイヤーの一体化が必要です。これらは共に、強固な基盤を築き、高度な体験を提供するための多元的な役割を果たします。トークンモデル、ノード・エコノミー、ID認証は、エコシステム全体の繁栄と発展を促進します。この点で、OWNはその多用途性を十分に発揮します。
具体的には以下の通りです。
・多言語サポート:OWNは、JavaやGOなどの複数の言語をサポートし、開発者に十分な選択肢を提供するとともに、オープンソースコードにこだわっています。
・マルチチェーン対応:EVMの統合により、Native、NeoVM、WasmVM、EVMの4つのコントラクトに対応しました。これにより、開発者は低コストでオンチェーンに移行し、イーサリアムエコシステムとの完全な統合を実現し、ユーザーと共有することができます。
・マルチアセット対応:ONTトークンはOWNのネイティブアセットであるのに対し、ONGトークンは複数のアセットの変換をサポートする「オントロジー・ブリッジ」を提供するオンチェーン手数料として対応します。
・複数の開発ツール:OWNは、Web3 API、スマートコントラクト、ブロックチェーンブラウザなどの複数の開発ツールをユーザーに提供し、開発者の参考となる詳細なドキュメントを用意しています。
OWNにおけるONT IDに代表される分散型デジタルIDにより、ユーザーは資産管理、オンチェーンガバナンス、dApps(分散型アプリケーション)、資産管理、融資などの複数の機能を実行できるようになります。
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信用連携の実現に向けて
従来の手法の欠点を克服し、真のコストフリーの信用連携を実現するために、分散型の信用連携はあらゆる産業で重要になると考えられます。
OWNは、「Ontology for the Web3」エコシステムが提供する汎用ブロックチェーン基盤として、ブロックチェーン基盤技術、ブロックチェーンプロトコル技術、汎用ツールなど、包括的な基盤サポートを提供するものです。さらにOWNは、開発者に充実したツールを提供することで、より少ない労力でより速い成果を達成するためのプラットフォームをプロジェクト関係者に提供します。これらの特徴は、個々のユーザーのコアな要求に応えるとともに、資産やデータの独立したコントロールを可能にします。
OWNが目指す信頼性の高いインフラは、一夜にして構築できるものではありません。フレームワークが単独で機能し、他のコンポーネントと組み合わさることで様々な異なる結果を生み出すことができるような柔軟性を確保することが不可欠なのです。OWNは、これらの要素を組み合わせてマルチチェーン共存共栄を実現し、最終的にユーザーにふさわしいWeb3信用エコシステムを構築する可能性を秘めています。
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