バイナンスとは
大手暗号資産(仮想通貨)取引所として著名なバイナンスは、ブロックチェーンに関連した幅広いサービスを提供しています。
ツイッターの公式アカウントのプロフィール欄には「バイナンスとは、ブロックチェーンのエコシステムとデジタル資産取引所である」と説明しています。
公式ウェブサイトで紹介している主な事業は、以下の通りです。
本記事では、仮想通貨取引所としてではなく、企業としてのバイナンスの特徴や取り組みをご紹介していきます。
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企業の概要
バイナンスは2017年7月創設。仮想通貨取引所を正式にローンチしたのも17年7月です。
グローバルに事業を展開する本家バイナンス以外に、米国で仮想通貨サービスを提供する「バイナンスUS」もあります。バイナンスUSをローンチしたのは2019年。US本社はカリフォルニアにあり、同国の規制を遵守し、米国民にサービスを提供しています。
バイナンスの創業者はChangpeng Zhao氏で、通称は「CZ」。公式ウェブサイトでは共同創業者としてYi He氏の名前も挙げられています。
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350超の仮想通貨およびトークン銘柄を取り扱っている等の理由で、取引所としても非常に人気があり、40言語でユーザーサポートを行なっている点も支持されています。
バイナンスのミッションは「仮想通貨のインフラサービスを提供すること」で、ビジョンは「世界中でお金の自由を促進すること」。そして、事業で一番大事にしているのはユーザーであると述べています。
バイナンスはまた、規制機関に協力し、高い水準のコンプライアンスを遵守できるようにしているとも主張。ユーザーのために責任感を持ち、ブロックチェーン業界が持続可能な方法で発展できるように取り組んでいると公式ウェブサイトに明記しています。
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CZ氏は以前、規制に準拠した運営を行うため、本家バイナンスも本社を構える必要があると語っていました。バイナンスは現在も、どこに本社を設立するか考慮しているとみられます。
バイナンスはミッションやビジョンを実現するため、上述した幅広い事業を展開。世界最大級の仮想通貨取引所は、あくまでプロダクトの1つであると述べています。
グローバル展開
バイナンスは各国の規制機関から警告を受けたこともありますが、上述した通り、規制に準拠してグローバルに事業を展開しようと努めています。
例えば最近の事例では、カザフスタンの金融規制当局であるアスタナ金融サービス局(AFSA)から原則的な(In-Principle)ライセンスを取得。このライセンスにより、バイナンスはカザフスタンのアスタナ国際金融センター(AIFC)で、仮想通貨取引所とカストディのサービスの提供が可能になる見込みであることを2022年8月に発表しました。
なお、発表時点では原則的な承認であるため、本格的なサービス提供にはまだ最終的な認可が必要だとしています。
また22年9月には、ナイジェリアの輸出加工区庁(NEPZA)と経済推進特区の設立に向けた会談を実施しました。バイナンス関係者は、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイにて、ナイジェリア関係者との会合に出席。NEPZAのAdesoji Adesugba教授は、ドバイのフリーゾーンに近い仕組みを目指すと説明しています。
今回の設立が実現すれば、西アフリカでは初の経済推進特区となる模様です。
なお、バイナンスはカザフスタンに加え、今年に入ってからフランス、イタリア、スペイン、さらにはニュージーランドでも事業認可を取得しています。
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ブロックチェーンの普及活動
バイナンスは、ブロックチェーン業界以外の著名な人物や組織とも協業しています。
22年6月には、グラミー賞をこれまで3回受賞しているアーティスト「ザ・ウィークエンド(The Weeknd)」のコンサートツアーの公式スポンサーになったことを発表。仮想通貨取引所が歌手のコンサートに協賛するのは、これが初めての事例だとされています。
バイナンスはコンサートを協賛するほか、HXOUSEというインキュベーターとも協業し、The WeekndのNFT(非代替性トークン)コレクションのリリースに協力すると説明しました。
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また同月、サッカー界のスーパースター、クリスティアーノ・ロナウド選手とNFTコレクションをリリースする契約を締結したことを発表。契約期間は複数年で、バイナンスNFT限定のNFTをリリースし、ロナウド氏のファンをWeb3の世界に誘うようなグローバルなプロモーションも行うと述べました。
ロナウド氏は「これから一緒にNFTゲームを変革し、フットボールを次のレベルに引き上げたい。これからが本番だ」とコメントしています。
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投資部門「バイナンスラボ」
バイナンスには、分散型ウェブの構築と支援を行うチームに出資する「バイナンスラボ」というベンチャーキャピタル部門があります。バイナンスラボの主な活動は、ブロックチェーン業界の起業家、スタートアップ企業、関連コミュニティに資金的な援助を提供すること。公式ウェブサイトによると今までの活動期間は3年超で、これまで25カ国以上に点在する180超のプロジェクトに出資しています。
例えば22年6月、バイナンスラボはPancakeSwapに戦略的出資を行なったことを発表。PancakeSwapエコシステムで利用されるCAKEトークンを購入することで出資を行いましたが、出資額は明かしませんでした。
当時バイナンスラボの責任者は「PancakeSwapは、BNBチェーンの開発と普及をリードしてきました。最も広く使われているdApps(分散型アプリ)の1つであり、BNBチェーン上で最も高いTVL(運用のためにロックされた仮想通貨の総価値)を持つDeFi(分散型金融)プロジェクトであることから、我々はこれからも強いサポートを提供し続けます」と述べています。
また最近では22年9月、レイヤー1ブロックチェーンプロジェクトを行う「Aptos Labs(アプトスラボ)」に2回目の出資を行ったことを発表。こちらも1回目と同様、出資金額は開示していません。
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バイナンスの共同創業者で、バイナンスラボのトップであるHe氏は、「Aptosチームの技術的な競争力は、ブロックチェーンインフラに高いスケーラビリティ(拡張性)をもたらす可能性を持っています。Web3の革新的なユースケースをサポートしてくれるでしょう」とコメントしました。
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それ以外にも、日本発のパブリックブロックチェーン「Astar Network(旧Plasm Network)」の開発を主導するステイクテクノロジーズに出資したこともあります。ステイクテクノロジーズはこの時、総額約2.5億円の資金を調達。バイナンスラボは、この資金調達を主導しました。
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仮想通貨業界を救済
バイナンスは上述したように、自社で事業を行うだけでなく、仮想通貨業界の発展にも貢献しています。バイナンスラボの事業に加え、22年に市場が低迷した冬の時代には、経営難にある企業を支援する意向も示しました。
CZ氏が22年7月のインタビューで、相場の低迷が続く仮想通貨業界をできる限り救いたいと発言。「今、現金が手元にある者は自分の役割を果たさなくてはならない」と主張し、50社以上と救済策を協議していると明かしました。
一方で「全てのプロジェクトが救済に値するとは限らない」とも説明。プロジェクトの設計や運営に難がある場合など、投資することはよくないとの考えを強調しています。
また、バイナンスの投資については、著名起業家イーロン・マスク氏によるツイッター社買収を支援する意向を示したことも注目を集めました。米証券取引委員会(SEC)の資料によると、バイナンスは約650億円(5億ドル)を出資予定。CZ氏はこの出資について「ささやかな貢献」とコメントしました。
なお、マスク氏はその後にツイッターの買収案を撤回したものの、当初の合意通り買収すると再提案しており、バイナンスらの出資も先行きは不透明です。
バイナンスの資金調達
出資を行う一方で、バイナンス自体も資金調達を行っています。本節では、バイナンス本体よりも創設から時間が経っていないバイナンスUSの最近の調達事例をご紹介します。なおバイナンスUSは、Binance.comから全面的に独立した事業体として運営されており、米国でビジネスを行うためのライセンスを取得しています。
22年4月には当時のレート換算で、企業の評価価値を5,600億円とし、シードラウンドで約250億円を調達したことを発表しました。出資した企業はVanEckやCircle Venturesら7社。調達資金は、現物取引プラットフォームの拡大や新規プロダクトの開発、マーケティングなどに充てていく計画であると説明しています。
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また同月、タイの大手エネルギー企業「Gulf Energy Development Public Company」から資金調達したことも明らかになりました。資金調達手段は「シリーズシード優先株式」の発行でしたが、金額は公表されていません。
この時バイナンスUSは、調達した資金で従業員を増やし、マーケティング活動を行なったり、プロダクトを拡充したり、将来的な買収に備えたりすると説明。そして、2年から3年後には米国で株式上場(IPO)を目指すと述べました。
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ロビー活動
バイナンスは、ロビー活動にも取り組んでいます。ロビー活動とは、政府の政策に影響を与えるような私的な政治活動のことです。
バイナンスUSは22年4月、業界団体「Blockchain Association」を脱退して、独自のロビー活動を開始しました。同社担当者は「我々は今、デジタル資産全般や仮想通貨をめぐる議会での政策議論に影響を与える明確な意見を持つ時だと考えている」と説明。米国の政策立案者と直接的・建設的な対話を行っていくと述べました。
また、ロビー活動としては具体的な内容は明かされていませんが、CZ氏が22年3月、英国政府や財務省関係者らが参加した夕食会でスピーチを行ったことが明らかになっています。この非公式の夕食会は、保守系シンクタンクの政策研究センター(CPS)が主催したもので、広報担当者は政策専門家グループとCZ氏が仮想通貨について話し合ったとコメントしました。
CPSは英国のマーガレット・サッチャー元首相が1974年に共同設立。サッチャー政権の保守政策に大きく寄与した組織で、国内で大きな影響力を持つシンクタンクです。これまでに政府が採用した数多くの政策を提案してきました。
独自ブロックチェーン「BNBチェーン」
バイナンスのエコシステムを理解する上で欠かせいないプロダクトの1つが、BNBチェーンです。BNBチェーンは現在バイナンスが開発しているわけではありませんが、同社ウェブサイトの企業紹介のページに、エコシステムのプロダクトとしてBNBチェーンを掲載しています。
BNBチェーンはブロックチェーンの名称でもあり、ブロックチェーンを構築するためのソフトウェアシステムの名前でもあります。現在は世界に点在するコミュニティが主導してBNBチェーンの開発を進めています。
一方で以前は、バイナンスの名前を冠した独自ブロックチェーンとして「バイナンスチェーン」と「バイナンススマートチェーン」が開発されていました。BNBチェーンの公式ウェブサイトにも、「バイナンスとコミュニティが開発しているブロックチェーンである」との説明が残っています。
BNBチェーンは、バイナンスチェーンとバイナンススマートチェーンの2つを組み合わせて誕生したブロックチェーン。BNBチェーン誕生の際、バイナンスチェーンは「BNBビーコンチェーン」に、バイナンススマートチェーンは「BNBスマートチェーン」という名称になりました。
バイナンスは22年2月、バイナンスチェーンとバイナンススマートチェーンは統合し、BNBチェーンに名称を変更。「BNB」という言葉は以前「バイナンスコイン」と呼ばれていましたが、「Build and Build」の略に変更するとも説明しました。
この時、BNBという仮想通貨はバイナンスを超えて、コミュニティ主導で分散型に発展していくと述べています。
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BNBチェーンの特徴
BNBチェーンはその後に発展し、以下の4つのパーツで構成されます。4つのパーツはそれぞれ違う役割を担っています。
BNBチェーンのエコシステム
上記のような拡張性の高い仕組みを構築しているBNBチェーン上には、すでにエコシステムが発展しています。現在展開されている代表的なアプリケーションは以下の通りです。
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BNBチェーンのエコシステムについては「DappyBay」というウェブサイトに、ゲームランキングやアプリの説明などを掲載。今後ローンチ予定のアプリや、リスクの高いアプリについても情報を記載しています。
BNBチェーンのロードマップ
今後の計画については22年5月、「BNB Chain Revelation Summit」というイベントでロードマップが公開されました。
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上記のロードマップによると、22年4Q(10月から12月)にかけ、主に以下の内容を完了する計画です。
また、22年4Qを挟んで、ZKロールアップという技術を使用したサイドチェーン「zkBAS」を開発するとも説明。1秒間に1万トランザクションを処理できるような次世代のサイドチェーンを構築すると述べています。
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教育ツール「バイナンスアカデミー」
バイナンスのエコシステムで、もう1つ特徴的なプロダクトがバイナンスアカデミーです。バイナンスアカデミーは、ユーザーが無料で利用できる教育プラットフォームです。ブロックチェーンに関する知識を学びながら仮想通貨を稼ぐことができる「Learn&Earn」の仕組みを導入しています。本記事執筆時点で、日本語を含む30言語に対応しています。
バイナンスアカデミーの提供はバイナンスにとって非常に重要な取り組みです。事業でユーザーを一番大事にするという信念も、バイナンスアカデミーの提供に反映されています。
バイナンスは特に21年、世界の規制機関から非常に厳しい目が向けられました。この時、CZ氏は公開書簡を発表。バイナンスのサービスに対して警告などが続いていることに対して、バイナンスアカデミー等を例に挙げ、ユーザー保護にも取り組んできたと説明しています。
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バイナンスアカデミーの最近の取り組みとしては、バイナンスが22年8月、韓国の釜山市と基本合意書を締結したことを発表。同市に対して、ブロックチェーン関連の技術やインフラ支援を提供すると説明しました。
この時、バイナンスは釜山市に対し、「バイナンスアカデミーによるブロックチェーン専門教育およびオンラインリソースの提供」などの支援を行うと述べています。
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慈善活動「バイナンスチャリティ」
バイナンスには「バイナンスチャリティ」という部門があり、慈善活動も行っています。公式ウェブサイトでは、バイナンスチャリティのことを「ブロックチェーンの透明性を活用した、初の寄付プラットフォーム」だと説明しています。
これまで実施した寄付の数は5,346。寄付で恩恵を受けた人数は187万超で、集まった寄付金の合計はビットコイン(BTC)で3,350BTC超(94億円相当)であることも公式ウェブサイトに記載しています。
活動の目的はもちろん寄付ですが、バイナンスチャリティはブロックチェーンの可能性を解放し、人々のために技術が活用されるように心がけています。信頼できるパートナーや仮想通貨コミュニティと共にブロックチェーンを利用して、国際連合の持続可能な開発目標(SDGs)をサポート。貧困や不平等をなくせるように、人類や地球に貢献していくと述べています。
バイナンスチャリティは、日本をサポートしてくれたこともあります。18年7月に発生した西日本豪雨では、募金活動を実施。仮想通貨で寄付を募り、同7月時点で総額で1.5億円相当がバイナンスの寄付アドレスに集まりました。その後、同10月に寄付を終了した時点では総額約5,670万円が集まり、岡山県、愛媛金、広島県の4万1,200人超の被災者を支援してくれました。
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また、20年にはコロナ禍に、日本でマスクが不足してる現状を少しでも緩和させるため、介護・福祉現場など高齢者施設にマスクを寄付してくれています。
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まとめ
以上がバイナンスの企業としての主な特徴です。日本の金融庁から「事業登録をせずに日本人にサービスを提供した」と2度警告されていますが、22年9月には、日本市場への再参入を検討していることが報じられました。
日本市場への再参入についてバイナンスの広報担当者は明確なコメントはしていませんが、CoinPostが取材した業界関係者(情報筋)は「再び日本進出を検討しているが、認可に関してはまだ不透明な部分がある」と回答しています。